じゅうよん



眩しい朝日を浴びて目を覚ましたキラーは思わず頭を抱えてしまった。


確かに、昨日はアリアに夕食を持って行ったあと、キッド達と珍しくいつもより多くの酒を飲んだ。

しかし、あまり酔わないと自負しているだけに昨日の記憶ははっきりとある。
だから、なぜアリアが自分の膝の上ですやすや眠っているのかという理由も分かっている。

ただ、後悔すべきは酒の勢いでアリアを自分の腕に納めてしまったことだ。

恐らく男に慣れていないであろう彼女にそんなことをするつもりはなかった。


しかし、月の光に淡く浮かび上がるアリアがあまりに儚く思えて、最初に会った時のように、もしかしたらこの少女の存在は月が生み出した幻なのではないかと思えてしまったのだ。

彼女の存在を確かめたい。

そんな想いで引き寄せた彼女の体は暖かく、そのことにひどく安心している自分がいることをキラーは自覚していた。


この気持ちが何であるか分からないほどキラーは子供ではない。
キラーは確かにアリアを愛しいと感じていた。

ただ、その想いはあまりにも淡く優しくちらついているので今まで経験したことのある燃え上がるような情熱的な恋とは程遠い気がするのだ。

自分にとってのアリアへの気持ちはまるで…



「まるで妹…みたいだな」

自分に言い聞かせるように言葉にする。

いつまでも優しく見守ってやりたい。
そんな感情が未だ自分の中に残されていたことがひどくおかしくてキラーは自嘲気味にフッと笑った。

キッドを海賊王にするべく邪魔者を排除してきた自分はまさに“殺戮武人”と呼ばれるにふさわしい殺人鬼だ。

アリアのような純真な存在に恋をするなど笑い話にもならないだろう。

だからこそ、この気持ちを妹を想うような気持ちなのだと声に出すことで無意識のうちにキラーは自分を戒めたのだった。









そっと頭に暖かな熱を感じてアリアは目を開ける。
ゆっくりと頭を撫でてくれる感触にアリアは目覚めたばかりのぼんやりとした視界で上を見上げる。

目に入ったのは首を傾けて、起きたか?と聞いてくるキラーの顔で。

だんだんと自分の置かれている状況が分かったアリアは思わずがばっと起きあがる。

「ご、ごめんなさい!私、あのまま寝ちゃって…!」

顔を真っ赤にさせてわたわたと慌てるアリアにキラーは笑いをこぼす。

「いや、昨日は俺が悪かった。少し酔っていたようだ」


特に何とも思っていなさそうなキラーの柔らかな言葉にアリアはほっとして首を振る。


どうやら恥ずかしいと思っていたのは自分だけみたいで、それならば下手に騒ぎ立てるよりもこのまま何も無かったように振る舞う方がアリアとしても気が楽だった。


「起きたなら、早速買い物に行くか。買う物はいろいろあるからな」

立ちあがって言われたキラーの言葉にアリアも頷く。




一応寝ぐせがないか確かめるために洗面所の鏡を覗き込んだアリアは思わずうわっと声を上げてしまった。

どうした?とキラーが声をかけてくれるが、アリアは慌ててなんでもない!と返す。

床の上で寝たせいか、アリアの髪はこれでもかと言うほどぐちゃぐちゃに絡まっていた。

こんな自分の姿をキラーに見られていたなんて、本当に穴があったら入りたい気分だった。

鏡と睨みあいながらアリアはどうにかこんがらがった髪をほどこうとするが、不器用なアリアの手ではなかなか元には戻せず、時間ばかりかかってしまった。


キラーも待ちくたびれているだろう。

アリアがどうしても解れてくれない部分の髪を引っ張りながら情けなくてため息を吐いた時だった。


すっと後ろから伸ばされた手がするすると器用に絡まった髪の毛を綺麗になおしていってくれる。

驚いて後ろを振り返ると、いつのまにかキラーがいて、面白そうに笑う。

「よくこんなに器用に絡まったものだな」

もうなんだかいろいろと恥ずかしかったが、髪を梳いてくれるキラーの手は優しかったし、初めて聞く本当におかしそうに笑うキラーの声に嬉しくなってアリアも一緒にくすくすと笑いをもらしたのだった。





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