じゅうさん
ふと目を開けると、自分がベッドの中に入っていることに気づいた。
(あれ…。私、どうしたんだっけ)
アリアはうーん…と首をかしげて思い返してみるが、自分からベッドに入った記憶はない。
夕食を食べてからキラーの帰りを椅子に座りながら待っていたのだが、なかなかキラーは戻って来なかったのでいつのまにかうたた寝してしまったのだ。
(…あ!そうだ、キラーは…)
そこまで思い返してハッとアリアは部屋を見回す。
部屋は薄暗かったので、最初はキラーがいるかどうかは分からなかったが、窓近くの壁際で片膝を立てながら寝ているキラーを見つけてアリアはほっと息をついた。
時刻は真夜中だろうか。三日月の微かな光がキラーを僅かに照らしていて、長い金髪が柔らかに月の光を反射していた。
アリアは、キラーがずいぶんと遅くまで帰って来なかったから、もしかしたら今晩は帰ってこないかもしれないとも思っていた。
だとしたら、男の人が帰ってこない理由なんて一つしかない気がして、アリアはなんとなくもやもやした気分になっていたのだった。
だから、キラーが部屋で寝ていることがアリアには思わず笑みをこぼしてしまうほど嬉しかったのだ。
しかし、キラーがアリアの寝ている間に帰って来たのだとしたら、アリアをベッドに運んでくれたのはキラーだったかもしれない。というか、十中八九そうなのだろう。
そう思うと、アリアはかぁっと顔が熱くなった。
(わ、私、重くなかったかな…!寝顔見られたよね…)
恥ずかしくて顔を手で覆ったアリアはあることに気づいてさらに慌ててしまった。
(嘘…!よだれでてる…!)
ごしごしと口元を擦るが、今さら遅いことに気づいてアリアははぁっとため息をついた。
どうせなら起こしてくれれば良かったのに…と少し恨めしげに寝ているキラーを見つめたアリアは、キラーが何も羽織らずにいつもの服装で寝ていることに気づいた。
この島は秋島でしかも初春だ。まだまだ夜は冷える。
アリアは慌ててベッドから起き上がって、毛布をキラーに掛けようとしたが、はたと困ったように動きが止まる。
もともと一人部屋のこの部屋には毛布を掛けようにも、ベッドにあるこの掛け布団しかないのだ。
少し考え込んでいたアリアだが、そうだ!と何かを思いついたように顔をあげると、今まで自分がかぶっていたこの掛け布団をずるずるとキラーのもとまで引きずる。
キラーのもとに着くと、アリアはばさっとキラーに布団を掛けると、もそもそと自分も布団の中に入り込む。
(ふふっ。一緒に入れば暖かいし一石二鳥だわ)
といっても、ぴったりとくっついてしまうのは自分の心臓が持たないので、少しキラーとの間をあけてキラーと同じように壁に寄りかかる。
ようやくゆっくりと寝れる体制を整えられたことにほっと一息吐いてキラーをちらりと見る。
仮面をかぶっているのでキラーの表情が見えないからはっきりとは分からないが、今までの行為で起こした様子はなさそうだ。
ふと目線を下ろすと、服から覗いて見えるキラーの腹筋。
恐らくとても鍛えられているのだろう。
自分がどんなに鍛えてもつくことのなかった逞しい筋肉がちょっと羨ましくて思わず手をのばしてキラーの腹筋をそっと触ってみた。
その時。
突然キラーの手が動いてガシッとアリアの手首を掴んだ。
キラーが寝ているとばかり思っていたアリアはびっくりしてキラーの顔を見ると、キラーが少し首を傾け、困ったように口を開く。
「俺も男だ。さすがにそれ以上触られると困る」
アリアはしばらくぽかんとキラーを見つめていたが、言われた言葉の意味を理解してみるみる顔を赤くさせた。
「キ、キラー…いつから起きてたの…?」
思わず身を引いたアリアに、キラーは少し笑いを含んだ声で答える。
「最初からだな。悪かったな。起きていると言った方が良かったか?」
アリアはキラーの言葉に驚いて目を見開いて固まってしまったが、はっと我に返ると慌てて弁解をする。
「あ、あのね、布団はキラーが寒そうだったから…!さっきのは変な意味で触ったんじゃなくて…!」
必死に言いつのるアリアの言葉は途中で途切れた。
何を思ったのかキラーが掴んでいたアリアの手をぐいっと引っ張ったのだ。
思いがけないキラーの行動に反応できず、アリアはぽすっとキラーの腕の中におさまってしまった。
「キ、キラー…?」
恐る恐る腕の中からキラーの顔を見上げると、かすかに香る酒の匂い。
どうやら少し酔っているようだった。
「暖かいな」
キラーの腕の中だなんて相当恥ずかしかったが、もともとキラーが寒そうでやったことだったのでそのキラーの言葉にアリアはとりあえず満足して遠慮がちにキラーの胸板にそっと頭を寄せた。
ゆっくりと一定のリズムで刻まれるキラーの心音が心地良くて、アリアはそっと目を閉じた。
正直、アリアの心臓はばくばくと脈打っていてとても寝れる気がしなかったが、目を閉じてしまうと一気に眠気に襲われて、アリアはいつの間にか意識を手放してしまったのだった。
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