妖、訪れる。



「ただいまー…って、うわぁ!李葉!?」

おお。夏目が帰ってきた。

「よう、夏目。邪魔しとるぞ」

窓辺に腰かけ、軽く手を振れば夏目が後ずさる。

なんだ。せっかく来てやったというのに失礼な奴だ。

「な、なんで、うちにいるんだ…?」

「私が呼んだ」

顔を青くして呟く夏目に同じく窓辺で丸くなっているブサ猫が答える。

「にゃんこ先生!?勝手に人を入れちゃ駄目だろ!?」


夏目がブサ猫に叫ぶが、ブサ猫は気にした風もなく目を細める。


「何だ。塔子なら快くこいつを迎えていたぞ」

「と、塔子さん!?」

ちょっと待ってろ、と言って夏目は慌ただしく下に降りて行く。

「全く。夏目は騒がしい奴だな」

そんな様子を呆れながら見ていると、ブサ猫が頷く。


「まぁ、夏目はここの夫妻に迷惑をかけたくないらしいからな。仕方がない」

「なんだ。それでは私が迷惑な奴のようではないか」


「違ってはおらんだろう?」

この口の減らないブサ猫め。






「悪かったな、李葉。なんか、塔子さんが困っていたのを助けてくれたんだって?」

夏目がお茶と菓子を持って戻ってきた。

「なに。荷物を持ってやっただけだ。気にすることはない」

ブサ猫と夏目の家に行く途中、大きな荷物を持った人を見かけて、あれが夏目の家人だ、と言うからちょっと気まぐれに手伝ってやったのだ。

「いや、塔子さんもすごく助かったって言ってたし、ありがとうな。そうだ。今夜は食べて行かないかって塔子さんが言ってたんだけど」

「そうか。心配するな。最初からそのつもりだ」

そう言うと、夏目が首を傾げる。

「夏目。こいつが珍しい酒を持っていてな。今夜は月見酒だ」

ブサ猫が嬉しそうに言う。

「月見酒って…李葉はまだ高校生だろ?」

夏目が呆れたように言うが私は鼻を鳴らす。

「年など関係ないだろう。夏目も呑め」

「何言ってんだあんた!?」

わぁっと叫ぶ夏目に私は耳をふさいで抗議する。

「うるさいぞ。全く騒がしい奴め」

そう言えば、ぱくぱくと口を開け閉めする夏目。


その様が面白くて吹き出す。

「ふは、は。まるで鯉のようだな、夏目」

「鯉って…!…はぁ。とにかく、酒の前にきちんとご飯は食べろよ、李葉もにゃんこ先生も」

その言葉に、ああ、と答えて笑う。

「ふふ。今夜が楽しみだ」




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