妖、見つける。


「本当にこっちでいいのか?ブサ猫」

「む。ブサ猫ではない。方向も合っているはずだ」


ふん。
それにしては一向に見当たらんがな。

そう思って鼻を鳴らした時、遠くの木陰をすっと黒い物が横切った。

「!あれだ!」


あの無様な背格好。
間違いない。

走って追いかければ、奴も気づいて逃げる。

今度は逃がすものか!

ブサ猫は邪魔だったからぽい、と投げ捨て本気で追いかける。


―ドサッ

「捕まえたぞ!」

勢いよく飛びつき、バタンと妖を引き倒す。

「下等な妖め!観念して荷物を返せ!」

髪の毛を引っ張って言えば、妖はふるふると震える。

今更、同情をひこうとは卑怯な奴め。

「素直に返さんと燃やしてしまうぞ!」

脅すが、妖は首を振るだけなのでいっそのこと本当に燃やしてしまおうかとした時

「どうやらこの妖は持ってないみたいだな」

いつのまにかブサ猫が追いついていて妖を調べていた。

「む。どういうことだ」

眉間にしわを寄せて聞くと、妖は震えながら話す。

「に、荷物は、そこの森で大きな妖にとられてしまいました…」

「なんだと!?」

詳しく聞けば、取られたのはついさっきらしい。

「仕方がない。ブサ猫。その妖を探しに行くぞ」

「ブサ猫じゃないと言っておろうが!無礼者め」

何を!?
どっちが無礼だこのちんちくりんが!

まぁ、私は器が大きいから許してやるがな!








「き、貴様もその荷物を盗られたというのか!?」

森の中を探しまわって、ようやくあいつが言っていた妖を見つけたと思ったら、またもその妖は他の妖に荷物を盗られてしまったらしい。

なんということだ。

がっくりと膝をついてうなだれていると、ブサ猫が服を引っ張る。

「落ちこんどる暇はないぞ。早く次を探さんと」

「ぶ、ブサ猫に言われるまでもないわ!私とて最初からそのつもりよ!」

おのれ!

こうなったら何が何でも友人帳を取り戻してやる!








森中を駆けずり回ること一刻あまり。

既に日は沈みかけて、森の中も薄暗くなっていた。

そんな中、ブサ猫と私は一本の木の下でぐったりとへばっていた。

「よ、ようやく見つかった…」

そう。巡り巡ってようやく友人帳を取り戻したのだ。

もう既に疲れ切っており、動く気力もない。

こんなに走り回ったのなどいつぶりだろうか。


ぼんやりと日が沈むのを眺めていると、ガサガサッと音がした。

気だるげに目を向けると

「げっ、夏目…」

驚いたように目を見開く夏目の姿があった。

「こんなところにいたのか。…あれ?にゃんこ先生もいたのか?」

夏目がへばっているブサ猫を抱え上げる。

「夏目。私達に礼を言え。妖に盗られた荷物を必死に取り返したんだぞ」

ぐったりと抱えられながらブサ猫がそう言うと、夏目が驚きで声をあげる。

「先生!喋っちゃ…!…って、あれ?妖に盗られた荷物を…?」

夏目が更に目を見開いて私を見つめる。

「どうやら、はっきりと妖の姿を見れるらしいな」

ブサ猫が夏目に言っていたが、そんなことはどうでもいい。

疲れた。

友人帳もブサ猫が夏目に返してしまったし。

もうよい。


ごろり、と草原に横になると、私の隣に夏目が座った。

「ありがとう。荷物、取り返してくれたんだ」

「いい。…ただの気まぐれだ」

「大切な物が入ってたんだ。本当に、ありがとう。…そうだ」

夏目は思い出したように何かを差し出してきた。

「?」

よく分からないまま受け取ってみると

「…!これは…」

ころりと手のひらに転がったのは透き通った青い石のはまった指輪だった。

「沼の中、探したんだけどそれしか出てこなかったんだ。探し物はそれで合ってたかな」


声が、出なかった。

ただの嘘だった。

指輪など落としていなかった。

それを夏目は必死に探して、指輪を見つけたのだ。

夏目の姿を見てみれば、腕や顔どころか服までもどろどろに汚れていて。


あぁ。人とはこんなにも愚かで、純粋で、優しいのだったか。

いや、夏目だけがこうなのかもしれないが。

少なくとも、遠い昔に忘れかけていた何かを、見つけた気がした。

それは友人帳などよりもずっと興味深くて、暖かいもののような気がしたのだ。


「ありがとう。これは…大切な宝物だ」


私は、そっと、その指輪を両の手のひらで包み込んだのだった。



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