妖、追う。


さて。

どれほどの妖の名前があるのか。

ぱらぱら…と友人帳をめくって眺めていると、突然木の上から黒い物が降ってきた。

「それは友人帳だなぁ?よこせぇ!」

「なっ…!」


私としたことがすっかり油断してしまっていた。

その黒く長い髪を振り乱した下等な妖は私から夏目の鞄ごとひったくると素早く逃げて行く。

「おのれ!待たぬか、愚か者!」


追いかけるが、人の姿だと何ぶん、分が悪い。

見失わないように駆けて行くのが精いっぱいだ。

しかし、上を向いて走っていたので道端の何かに躓いて無様に転んでしまった。

ばっと起き上がった時には既に妖は見えなくなっていた。

「くそっ!運の良い奴め!」

ぎしり、と歯を噛みしめながら唸った時

「おい。私を蹴っておきながら謝罪の一つもないとはどういうことだ」

足元から声がした。

何がいるのかと見下ろすと

「ぎゃっ!変なブサ猫が喋りおった!」

思わず飛び上がって驚く。

「変なブサ猫だと!?このプリティな私に何ということを!」

なんとも不思議な生き物がこの世にはいたものだ。

ちんちくりんな体でぷんすかと怒るそれを私はつまみあげる。

「…。お前、人の子か?」

つまみあげられたブサ猫が尋ねてくるが、答える前にブサ猫は一人で納得してしまった。

「むぅ。夏目のとこの学校の制服じゃないか。しまったな。つい話してしまった」

「夏目を知っているのか?」

何でこんな話すブサ猫が夏目の名を出すのか。

驚いて聞くと、ブサ猫は観察するようにじっくりとこっちを見てきた。

「お前、妖が見えるのか?…そういえば、さっきも何やら妖を追っていたみたいだったな」

こっちが質問しているのに無視をするとは肝の据わった奴め。

しかし、その言葉で思い出した。

「おのれ!このブサ猫め!貴様のせいであの妖を見失ってしまったではないか!」

腹立たしくなって、ブサ猫の耳を思いっきり引っ張ってやる。

「いたた!何をする!やめろ!」

「やめぬわ!貴様のせいで!貴様のせいで…!」

「分かった!話を聞くから離せ!」

ブサ猫がぎゃあぎゃあうるさく喚く。

むぅ。まだ腹立たしいが、うるさいから離してやろう。

猫を下に降ろして、私も地面に腰を下ろす。

「…ふぅ。乱暴な奴め。一体何があったんだ」

「…。夏目の荷物を奴に盗られた」

「……な、なにぃい!?」

うるさいぞ、ブサ猫め。

耳をおさえて睨むが、ブサ猫は一向に気にした様子もなくあたふたしている。

「な、何故お前が夏目の荷物を!?あのアホモヤシめ!大切な友人帳を…!いかん!すぐに取り返さねば!」

「…今更遅いわ。貴様のせいで奴も見失ってしまった」

頬杖をつきながら諦めたように言うと、ブサ猫はぐわっと吠える。

「奴の去った方向なら見ていた!今すぐ追うぞ!」

なんと。
こんなブサ猫が役に立つとは。

本当に世の中は分からんものだ。

「よし!案内しろ、ブサ猫!」

「ブサ猫と言うな!私には斑という素晴らしい名があるのだ!」

「うるさい!そんなのどうでも良いわ!行くぞ!」

こうして、私はブサ猫を脇に抱えて走り出したのだった。



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