とお
「…うーん」
どうしよう。
掴まれたリクオの手に力なんて込められていないのに何故かふりほどけない。
でも、ここにいると必要以上に奴良組にのめり込んでしまう…。
「そこの餓鬼、喰い殺してやろうか?」
迷っていると、嘲るような唸り声をあげた獏を私は軽く諫める。
「変なこと言わないの。…ねぇ、私がここにいて、それでどうするの?」
リクオを見下ろすと、リクオは妖艶に笑む。
「別に。ただ、俺の傍にいて欲しいだけだ」
「…!」
そんなことをそんな顔で言われたら、どうすればいいのか分からなくなっちゃうじゃない…!
「随分と生意気言うようになるじゃないか。たいした違いだな」
ふん、と鼻を鳴らして獏はたてがみをふるわせる。
多分、昼と夜のリクオの違いを言ってるのだろう。
全くだ、と私は頭に手をやってため息をついた。
そのとき
「来れば良いじゃねェか」
後ろの方から声が聞こえて、振り向くと牛鬼や牛頭丸達が瓦礫に腰をかけていた。
その中の牛頭丸が私を見て肩をすくめる。
「前に助けてもらったからな。礼もしてねェんだ。本家にぐらい招いてやるよ」
「牛頭。それはお前が言うことではない」
牛頭丸の言葉を静かに諫めてから牛鬼がこちらを見つめる。
「…いつぞやの時にお逢いしましたな。あの時は見苦しい姿を見せてしまった」
その言葉に、牛鬼が私のことを同等以上…妖怪ではない存在だと理解していることが分かった。
もしかしたらぬらりひょんが話したのかもしれないし、牛鬼も長きを生きてるのだから神という存在に逢ったことがあるのかもしれない。
「しかし、牛頭の言うことも一理ある。どうですか、リクオ様?」
牛鬼の問いかけにリクオはにやりと笑う。
「悪くねェな。来いよ。オレん家へ」
そう言ったリクオの横に、黒い畏れの羽織をはおった黒田坊、青田坊、毛倡妓そして…
「黒羽丸…」
背中に気配を感じて見れば、黒羽丸が立っていた。
「…正体は明かさなくていい。一度本家へ…皆に会ってみないか?」
「う…」
確かに、この前きちんと本家へ挨拶に行くとは言ってたけど…
このタイミングでか!
私が折れかけたとき、そんな空気を破って竜二の声が響く。
「おい、お前…何者だ!?」
百鬼夜行を連れたリクオに向けての言葉。
それにリクオは私の腕をつかんだまま堂々と答える。
「オレは―関東大妖怪任侠一家奴良組若頭、ぬらりひょんの孫―奴良リクオ」
「ぬらりひょんの…孫…だと…!?」
そんな険悪な雰囲気のなか、雪女が人間の姿のままぱたぱたと駆けてきて派手にずっこける。
それにゆらちゃんが唖然としている様子が何かすごく面白かった。
私の正体を知ったときはゆらちゃん、どんな反応してくれるんだろ。
想像して思わずくすり、と笑ったとき
―ぞくり
「妖怪ぬらりひょん…滅すべし」
魔魅流が首無の糸を引きちぎってリクオに向けて手を伸ばした。
それを黒と青が、がしっと押さえるが、それすら畏れずにぎろりと目をむく魔魅流。
首無の紐を力尽くで切ったためだろう。その腕からは赤黒い血が垂れていたが、彼はその腕を庇うどころか、まるで傷自体にも気づいていないように戦うことをやめようとしない。
…これは。
なんとなく、分かってしまった。
この街で彼らに会ってから魔魅流に対して抱いていた奇妙な違和感。そして獏でさえ首を傾げる術の発動。
それらが憶測でしかないが、なんとなく繋がった気がして私は僅かに顔をしかめたのだった。
「やめろ魔魅流!そこらへんにしとけ!」
竜二の制止で、一触即発の空気は変わり、竜二はゆらちゃんに訃報と、羽衣狐のことを語ったのだった。
[ 90/193 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]