ここのつ



「大丈夫?リクオ」

未だ、倒れたままのリクオを覗きこんで問うと、リクオは低いうめき声をあげた。

よかった、生きてる。

って、まぁ、そりゃそうじゃなきゃ困るんだけどさ。

…でも、ひどい傷を顔に負っている。

雷、の式神だったからだろうか。

額から左目にかけてただれてしまって、目がふさがってしまっている。

この戦いで、リクオはこんなひどい傷を負うはずだったろうか。

治療が遅ければ、顔に傷跡が残ってしまう。

いやいや、それはいけないだろう。

私が見守っていたというのに、こんな綺麗な顔に傷跡を残させては神の名が泣くよ。

火傷のひどくなったもの、だとしたら私の力で少しはマシになるだろう。

「ちょっと失礼」

そう言って私は痛そうに歪められたリクオの顔に手をやる。

力を込めてぽう、と淡く手のひらを光らせれば、ただれた傷がゆっくりと癒え、穿った傷跡に新しい肉が盛り上がる。


「くっ…」

リクオが痛そうに声を上げる。

でも、良かった。

ゆっくりだけど、確実に効いてる。

「左目、開けられる?」

聞けば、リクオは左目に手をやりながらゆっくりと開けた。

「きちんと見える?失明してない?」

さすがに失明してしまっていては私の力は及ばない。

心配して聞けば、ゆっくりとリクオは目を瞬かせて私を見上げて…―綺麗に笑った。

「ああ。霞んじゃいるが、大丈夫だ。ありがとよ」

「…っ、そりゃ、よかった。一安心」

一瞬その笑顔に目が奪われたなど一生口に出すまい。

くそ、なんで夜のリクオはこんなに綺麗な顔してるんんだ…!
昼のリクオはあんなに可愛いのに…!!

叫びたくなるのを抑えながら葛藤していたとき。

「あ、の…、奴良くん、大丈夫、なん…?」

恐る恐るゆらちゃんが瓦礫の影から顔を出して聞いてきた。

それに私は少しだけ面を上にずらして安心させるために笑って見せた。

「大丈夫。必ず治すよ」

その言葉に、ゆらちゃんは複雑そうな顔のまま、少しだけほっとしたように息をついた。

「…」

兄と友達。

大切な人同士が戦いあっているなんて、見ている方も辛いだろう。

だから、少しでも安心できるように、笑って見せた。



その後ろで

「く…」

竜二のうめき声が聞こえた。

そう言えば竜二も癒してあげた方が良かっただろうか。

…でも、祢々切丸、だし…。

「くそ…、いてぇ〜」

あ、血を吐いた……。

…あとできちんと見てあげよ。








「ほ…本気で滅するつもりなん…?」

瓦礫の影からゆらちゃんが戸惑ったようにお兄ちゃん、もとい竜二に声をかけると竜二が荒く返す。

「当たり前だ!!見ただろう!?こいつは刀でオレを…」

そう言って竜二ははっと気付いたように祢々切丸を凝視する。

見る人が見れば、祢々切丸がどういう刀かすぐ分かるはずだ。

案の定、竜二は眉間にしわを寄せてリクオを訝しげに見る。

「……」

一寸考え込んだ後、すぐに竜二はすっと私に鋭い視線を向ける。

「…お前は邪魔すんなよ」

その言葉に私は肩をすくめる。

竜二の言葉には従えないという意思表示だ。

それに忌々しげに舌打ちをついて、竜二が魔魅流に命令する。


「やれ…、魔魅流。そいつに構うな。“さっさ”と…始末しろ」

「奴良くん…!」

ゆらちゃんの声と、まっすぐ向かってくる魔魅流。

その手を止めるために私が腕を伸ばす、その一瞬前。

音もなく、細い紐が魔魅流の手を絡め取った。


「はい―そこまでだ」

相変わらず爽やかな顔をした首無の涼やかな声。

ああ、そうか。ここで百鬼夜行の登場。

ならば

「獏」

呼べば、ふわりと隣に降り立つ獏。

「行くのか?」

獏の問いに私は頷く。

「もう私は必要ないもの」

そう言って獏の背に手をかけて、乗ろうとしたとき


―パシッ


「待てよ」

「え?」

腕を、掴まれた。

「リ、クオ…?」

「ここに、いろよ」

細められた赤い目が、私を射抜いた。



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