やっつ


三分。


竜二の言葉に私は苦笑する。

「たいした嘘つきだね」

三分で自分の限界が来るのだと明言し、徐々に式神を減らし、自分も体力を消耗する演技をする。

彼が嘘つきだと知らなかったら、騙されるのかもしれない。

…そこの瓦礫の影のゆらちゃんのように。

っていうか、ゆらちゃんはいつも騙されてお兄ちゃんの言葉が嘘ばかりだと知っているはずなのに、頭っからその言葉を信じるなんて…

「妹って、かわいい!!」

私の突然の大きな呟きに、獏が不審そうにこっちを見ていたけど気にしない。

いいなぁ、私も妹か弟が欲しい…!

そしたら溺愛するのに…!

なんてことを考えているうちに時間は刻々と流れる。


そして、“三分”


「3分間、ごくろうさん」


にやりと笑んだ竜二の口元が土煙りのなか、私たちがいる高い瓦礫の上からでも微かに見えた。

そして発動する、三分間で作りあげられた“金生水の陣”に、ゆらちゃんが驚きの言葉をあげるのも聞こえた。

「ゆら…学べよ。力技だけではいかん。妖怪のような“悪”に対しては2重3重に罠をはってのぞめ」

そう勝ち誇る竜二の背後。

突如現れた刀が、竜二の首に突き付けられた。

「…呆れた。相変わらずリクオの気配だけは読めないのよね、私」

いつ彼が陣から抜け出していたかも、竜二が話していた間いつの間に彼の背後に回っていたかも、戦いを見ていた私なら気付くはずなのに。

ため息をつくと、横で獏がふん、と鼻を鳴らす。

「それがぬらりひょんだ。まぁ、俺には見えてたがな」

「…なんで獏には見えるの」

なんか負けた気がして、憮然と聞き返すと獏は私を笑う。

「年の差だよ。俺とお前は千年以上違うのだからな。黄竜としては認めるが、圧倒的に経験が違うんだよ」


「…なんかむかつく」

獏が馬鹿にするように言うから、私は獏のふさりとした長いたてがみをびっと引っ張ってやった。

すると、それが相当痛かったのか、獏は唸り声をあげて獏が怒る。

「こら!やめないか!そうやってすぐ当たるところも幼い証拠だろう!まったく、最近の若いものは年上に対する礼儀が―……。―…親しき仲にも礼儀、主従の間にも礼儀を必要とするのが我ら中国の道教の教えであってだな―…」

珍しく言葉多くがみがみと諫める獏を私は肩をすくめてスルーすることにしたのだった。

そんなに痛かったのかな。

あ。引っ張った獏のたてがみ一房抜けてた。

つい獏だから力加減をしないで引っ張っちゃったのか。

でも悪びれることなく、私は手の中に残った数本の赤茶色のたてがみを弄りながら眼下の戦いに目をやる。

“てめぇの言葉はウソだらけ”


「お…、お兄ちゃん!?」

そう言ってリクオに祢々切丸で斬られた竜二に、ゆらちゃんが悲鳴をあげる。

うん。何度騙されたってゆらちゃんもお兄ちゃん好きなんだよね。

いいな。妹。

さっき獏にも言われたように、この世界で家族だと思ってる存在は皆、私よりも遥かに長きを生きてるから必然と私が最年少になるのだ。

いいなぁ…。

かなり竜二がうらやましい。


なんて、また考えに耽っていたとき、隣で獏が声をあげた。

「あれは…」

「え?」

その声にはっとしてリクオに目を向けると、ちょうど魔魅流が呪符でリクオに攻撃したところだった。

「ガッ…!」

「リクオ!」

もろに受けた。

あれはキツイ。

顔をしかめた私に、獏が呟く。

「あの陰陽術、道教をもとにしているのか…」

「道教…って、獏もまじないをするとき使ってる考え方、よね?」

獏が神使になってから、何度かまじないを見てきた。何度かその基本を説明してもらったこともある。

私の言葉に頷いて獏が感慨深げに唸る。

「このような東の地でも道教は生きている。…しかし、少しあの術は少し、異質な気がするな…」

首をひねる獏の考えていることは私には分からない。

適当に、ふーんと相槌を打って私はリクオを見やる。

ああ、相当つらそうだ。


「ちょっと行ってくるね」


一人ぶつぶつ呟いてる獏に声をかけて私は瓦礫から飛び降りたのだった。




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