ななつ


妖怪に変化したリクオと竜二達が対峙する。

その場で一歩、ざっと踏み出した魔魅流を制して竜二が言う。

「待て、魔魅流。そいつはオレがやる」

そう言って竜二は式神の入った筒の蓋を開け、リクオは祢々切丸を抜く。




「おい」

それをぼんやりと見ていたら唐突にリクオに呼ばれて私は驚いて目を見開く。

「あんた、この子を頼めるか?」

そう言ってぐったりとしているゆらちゃんを示す。

「…いいよ。でも」

それに頷いて、首を傾げる。

「正体も分からないような私に“仲間”を預けていいの?」

そう言えばリクオはふっと笑った。

「“仲間”に“仲間”を預けて何が悪い?」

「…は」

あまりの言葉に、一瞬言葉が出てこなかった。

え、今、こいつ何て言った?


反応しない私に頼んだぜ、と言い残してリクオは竜二と向かい合った。

「…」

まさか、気付かれたわけ…ないよな。

誰かも分からぬ“私”を。
そのままの“私”を。

彼は、仲間と呼んだのか。



何やら自分でもわからない不思議な感覚に包まれながらも私はゆらちゃんを抱えて戦いに巻き込まれぬように瓦礫の後ろに移動する。

「ゆらちゃん、大丈夫?」

そっと濡れた額に手をやって聞けば、ゆらちゃんが私を見上げる。

「あんた…、あの時の…」

どうやら私が“水姫”だとは気付いていないようだ。

「少しじっとしていてね」

そう囁いてゆらちゃんの額に置いた手のひらに力を集める。

ぽうっと淡い色にゆらちゃんの体が一瞬包まれて、消える。

「はい。だいぶ良くなったでしょ?」

ちょっとした治療を施して笑うと、ゆらちゃんががばっと起き上がる。

「な、なんなん!?今の!」

「秘密」

ゆらちゃんの質問をにべもなくばっさり言ってから私は瓦礫の向こうを示す。

「それよりも、見なくて良いの?」

そう言えば、ゆらちゃんははっとしたように瓦礫に飛びつく。

…。

うん。単純な子だ。

竜二がゆらちゃんで遊びたくなるのも分かる気がする。



そんな私の横を

―ぴょんぴょん

蛙が跳ねていった。

何の気なしにそれを見送っていたが


「式神融合“仰言”」

竜二が金生水の花を咲かせたなかに、蛙は飛び込んでいく。

「な…、なんや…。花?水の花?」

ゆらちゃんの言葉に竜二が口端をあげる。

「ただの水ではないぞ。仰言よ。地に根をはり…花を咲かせて魅せよ」

「あ、蛙が」


―ひょい


「え?」

「は?」


ゆらちゃんと竜二の呆気にとられた声を聞きながら金生水の花々が落ちるなか、飛び出す。


―ジュワァアア

金生水で地面が溶けるなか、私は両手で蛙を守った。

たかが蛙と思うことなかれ。

だって、蛙は猿田彦大神様の使いなんだもの。

それをみすみす見捨てるわけにはいかないでしょうが。

まぁ、無事でよかった。

ほっと息をついて私は蛙を外の原っぱに逃がしてやる。


そうして初めて戦いの場の微妙な空気に気づいて私は手を振る。


「あら、失礼。どうぞ気にせず続けてくださいな」

その言葉に竜二は苦い顔をし、リクオは吹き出す。

「くっくっ。やっぱ面白ぇな、あんた。ますます、俺の百鬼に入れたくなったぜ」

「や、その話はまた今度で。…ごめんって、竜二」

苦々しげにこちらを睨む竜二。

そりゃそうだろう。

一番の彼の見せ場だったのに、それをぶち壊してしまったのだから。

「はぁあ」

大きくため息をつかれ、私は竜二に手でしっし、と追い払われる。


「仕切りなおしだ、妖怪。こいつは地面も溶かす、式神仰言。金生水の花だ」

「金生水…?」

ゆらちゃんが真剣に呟く。

おお。ゆらちゃんナイスフォロー。

そうそう。お兄ちゃんの台詞を聞いてやってあげて。

その隙に私は戦いの場の中心から退場する。

すると、横に獣の姿の獏が現れる。


「なかなか面白い見せものだったな」

鼻で笑う獏の耳をぎゅうっと掴んでやったのだった。



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