ふたつ
「誰だ?」
止める前に振り返った獏が威圧的に彼らを睨む。
彼ら…。
うん、そう…。
「獏…、この人たち陰陽師だよ…」
肩を落として説明する私を見て、竜二が眉をひそめる。
「お前…、あの時の?」
「ど、どうも。その節はお世話になりました〜…、あはは」
ひきつった笑いで挨拶してみるが、竜二は険悪な顔を緩めない。
「どうしてここに?」
問いながら、さりげなく手を服に入れてるよー。
式神でも出すつもりでしょうか。
とりあえず、こんな公衆の面前での揉め事なんてダメ。絶対。だから、挑発しないように手をあげて見せる。
「だって私、ここに住んでるもの。でも実家が京都でね。たまったま妖怪を絞め上げてたところに貴方達が来ちゃったのよね」
「…そんなことあったのか?」
獏の問いかけに私は髪をがしがし掻く。
「そうよ、そう!その後に貴方拾ったんだから。服装変だし、獣耳ついてるし、本当どうしようかと…あ、そうだ。聞きたかったんだけど、獏の本当の姿ってどんなの?母様に聞いてもよく分からなくて…」
「あ?…そんなのどうでもいいと思うが。それよりも、目の前の方気にした方がいいだろう」
言われて、目の前の二人の剣幕に気づいて私はため息をつく。
「…お前、何者だ?あの時は分からなかったが、どうも妙だ。お前らのそれは…邪気じゃねぇ」
竜二のその言葉に私は笑む。
「やっと分かってくれた?あの時は聞く耳持ってくれなかったものね。じゃあ、私に敵意がないってことも分かってくれるかしら?」
「それとこれは別だ。邪気がねェからといって、人間の味方ってわけでもねェだろ?」
にやりと笑う竜二に私は困ったように頬を掻く。
「…そうね。…それなら、今からうち、来ない?」
「はぁ?」
竜二の思いっきり不審そうな顔。
つくづく悪そうな顔してるわ、竜二くん。
そんなことを思いながら、私はにこっと笑った。
「羽衣狐のお話。興味ない?」
カコン、と庭の獅子威しの音が夜の虫の声の合間に響く。
その音を聞きながら、私はぱさりと制服を脱いで着物に着替える。
それを見計らったかのように、木霊達がわらわらと私の部屋に入ってきた。
「水姫様ー!」
「大変ですよう」
「獏様がお客様と喧嘩してますー!」
木霊達の言葉に私はため息をつく。
「分かったわ。今すぐ行くから」
そう言って、私は自分の部屋を出て、竜二達を迎え入れた部屋に向かう。
竜二は最初、私が家に招き入れる意図を測りかねる様子だったが、羽衣狐の言葉を出されたら聞き流すわけにもいかなかったのだろう。
大人しくついてきてきれた…のだが、獏と竜二の反りがとことん合わないらしく、私を挟んで思いっきり二人でガンの飛ばし合いをしていて、正直疲れた。
そんなこんなで、私が着替えている間の二人のお世話を獏に頼んだのだけれど…
「なんで、こういうことに?」
私は客間の襖を開けて、呆れてため息をついた。
喧嘩は喧嘩でも陰陽師と霊獣の喧嘩。
客間は水でびっしょりだし、竜二の服は裂けてるし。
血が見えないだけでもましだと思いたい。
とりあえず、指をくるりと回して濡れていた水気を集めて、睨みあっている二人の頭に落とす。
「頭冷やした?二人とも」
私の言葉に、むすっとしながらも二人がこっちを向く。
「とりあえず、座ってもらおうかしら」
私が言えば、渋々と獏は胡坐をかいて座る。
未だ立ちながら警戒を解かない竜二に私は向き直る。
「さて、と。改めて名乗らせてもらうわね」
竜二と、その後ろに佇む魔魅流をまっすぐ見つめて私はふわりと笑う。
「人に名乗るのは初めてだわ。私は夜護淤加美神。夜を護る、と書いて夜護。まだ生まれて間もないが、一柱の神よ。どうぞよろしく」
漫画で見たことのない呆気にとられた竜二の顔に、私は可笑しくて笑ってしまった。
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