とお



姿を現したリクオに、男共が押し寄せる。

「話を聞かれたぞ!!殺ってしまえーー!!」

そんな彼らを見て、リクオは刃を光らせる。

―ズバン


リクオが柱を斬って天井の一部が崩れ落ちる。

その事実に男達は畏れおののく。

「あ、ありえねぇ…。てめえ、人間じゃねぇ…、何者だ」



(奴良組、若頭―妖怪ぬらりひょんの孫。奴良リクオ)


私が胸の中で呟いた言葉を言ったのは、リクオを追ってきた小妖怪達。


本当にリクオが人間じゃないとわかると、男共は悲鳴をあげながら逃げて行った。


逃げて行った男達に歯ぎしりをして、神主さんだけがリクオと対峙する。


「お…おのれぇぇ〜〜…。よくも…。よ…妖怪だと〜…」

ぎろりとリクオを睨む神主さんが出したのは、ほとんど力のない式神。

「だったら!!このワシの花開院流陰陽術、式神受けてみろやーー!!」







それを叩き斬ったのは、邪魅。

あんた、獏に蹴られ、いろいろと苦労したねぇ。

ほんと、ごめんね。

心の中で謝ってから私は少し物陰から身を乗り出す。


「神主さんよ。こいつが町に現れる本当の邪魅だよ」

つかつか、とリクオが神主さんに迫る。


「あんたの妖怪騙りのせいで不当にあつかわれたこいつのお礼だ…。受け取れ!!」

隙間から覗き見えたその姿に、その瞳に私はぞくりと身震いをする。


―明鏡止水 “桜”


燃え上がる炎の中の彼の姿を私は瞼に焼き付ける。


もっと。

もっともっともっと。

もっと大きくなれ。

もっと登っていけ。

あんたが魑魅魍魎の主となるその日まで―…









「水姫」

呼ばれて、振り返る。

「お。獏くん。どうだったい?彼は―…って聞くまでもないような顔をしてるね」

それに答えずに獏は燃えている神社を見やってから足元に目を落とす。

「なんで、こいつらを助けた?」

私の足元には、少し火傷を負って気絶している神主さんと逃げ遅れたチンピラ達…とハセベさん。

ちなみにあの技を直接喰らってたら今頃白骨死体だから、神主さんについてはちょこっと水の膜を張ってあげたのだった。

「なんでって…。あそこにいたら焼け死んじゃうじゃん」

「そんなの、放っとけばよかっただろう」

そう言って、昼間私にちょっかいをかけてきたチンピラを小さく蹴る獏にため息をつく。

「確かに、彼らはやっちゃいけないことをした。でも、それは死ぬほどの罪ではないよ。あいつはたまにやりすぎるね」

瞼に焼きついた彼の姿を思い出して苦笑する。


「う…」

獏に蹴られて目を覚ましたのか、一人のチンピラが声をあげる。


「お。丁度良かった」

彼の顔を覗きこんで笑う私に、そいつは悲鳴をあげる。


「ひっ…!お、お前も…!妖怪…!?」

「あら。失礼ね。せっかく助けてあげたのに。…獏、やめなさい」

チンピラの言葉にがつがつと男の体を蹴る獏を諫めてから私は彼の目を見て、にっこりと笑う。

「確か、私に覚えてろって言ってた子だよね。私のことは覚えてくれていたようでなにより。実は私ね、妖怪じゃあないけど、多少強い力が使えるの。そこの神社と一緒に焼け死ぬか、私の力で溺死するか…私の言うことを聞くか、どれがいい?」

しゅるりと手のひらから水を出して、聞くと、男は素直に言うことを聞いてくれた。

後ろでひゅうっと口笛を吹いた獏のことは無視した。










「じゃ、そこの裏からこっそり逃げな。表にはまだ妖怪がいるからね」

ひそひそと囁いて男達を送り出す。

男は震えながら、神主さんとその他のチンピラ数名を一人で抱えて泣きながら暗闇に姿を消していったのだった。

よし。これで勝手にあいつらは自首してくれる。

自分たちの悪事を吐いて、土地を追い出された人たちも戻ってこれるか、賠償金をもらえるだろう。


私の役目はここまで。

彼の尻拭いにもなかなか手が焼かされるもんだ。

裏から邪魅と盃をかわしているリクオの姿を見守りながら、私はまた少し微笑んだのだった。




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