ここのつ
その夜。
リクオくんの必死な言葉に神主さんが用意した札で結界を張った品子ちゃんは、一人だけで部屋に寝ることになった。
「ねぇ、みんなぁ…。やっぱり品子さんをあの部屋で一人にするなんて…おかしいと思うんだけど」
違う部屋に布団を敷いて、横になったカナちゃんがしばらくしてからカナちゃんが不安そうに言う。
「ゆらちゃんもいないし…みんなでいた方が…。…ってもう!みんな寝てるしー」
むくりと起きあがったカナちゃんが他の人たちが皆寝ていることに困った顔をしていたが、ここは寝たふりしとこ。
次のタイミングまで…
もー、とカナちゃんがふと外へ続く障子に目をやったとき
月明かりに映されたその姿にカナちゃんが反応する。
「ま…、まって!!」
カナちゃんがリクオくんを追いかけようとしたその瞬間。
「呪いの吹ぶ…!」
「きゃっ!」
一瞬で移動して姿が捉えられないうちに二人の首元に手刀を降ろす。
カナちゃんに凍え死ぬ思いして欲しくないし、雪女に見張られてるといろいろと厄介だから。
「ちょっと二人とも大人しく寝ててね」
倒れた二人を布団に戻して私は立ちあがる。
「よし。せっかくの邪魅退治。観戦させてもらおうかな」
うきうきとした気分で鞄に手を突っ込んで、私は首を傾げる。
「…?ん、あれ?…え、うっそ」
鞄をひっくり返しても出てこないことに私は深くため息をついた。
「衣面…忘れた…」
そんな私の後ろ姿をじっと見ていた視線があることも知らずに、私は肩をおとして外に出たのだった。
「なによ」
外で待っていた獏と合流した私は何か言いた気な獏にむすっと声をかける。
「まだ何も言ってないじゃないか」
理不尽な言葉にたじろぐ獏に、私ははぁっとため息をつく。
「…そうね。ごめん、八つ当たりよ。まさか忘れるとはね…」
ふと、春奈の言葉を思い出す。
「肝心な時に抜けている…かぁ。案外、春奈って私のことよく知ってるなぁ」
「お前の正体も案外知ってたりな」
その言葉に、私は笑う。
「そうかもねー。家も見られたの春奈だけだし。…ま、そんなことは置いといて。神社、着いたからお互いリクオ達には顔を見られないように気をつけよ」
そう言って私は獏に手を振る。
「好きなところから見てるといいよ。きっと彼は君を飽きさせないだろうから」
未だ疑わしそうな彼に再び笑って、私は裏手から神社に侵入したのだった。
「ガハハ…。迷信を利用してまたうまくいったなぁ。これでついに“菅沼家”の土地も落ちるぞぉ」
黒い服の男達の中心にいるはずの神主。
そいつが今どんな顔をしているのかは私の位置からじゃ見えないが、まさに“悪気なる”顔をしているに違いない。
その顔を拝んでみたいけど、生憎リクオがどこから現れるか分からない私は物陰に隠れて、彼らの後ろ姿を見ていることしか出来なかった。
そのとき、彼らがざわざわとざわつきだす。
「お前は品子ーー!?ど……どうして!?なぜ出られたんだー!?」
おお。品子ちゃん登場か。
「神主さん…。なんで……その人達と一緒にいるの…?」
品子ちゃんの言葉に、神主は誤解だ、というが、言い訳できるレベルじゃないだろう。
それは当たり前すぎることで。
近寄る神主を拒絶した品子ちゃんが叫ぶ。
「近寄るなー!おかしいと思ったのよー!!あんたたちがグルになってしくんだんでしょーー!?」
その言葉に、諦めた神主が開き直って彼女の前で正体を現す。
「…知ってしまったか……。ならば痛い目を見て言うことをきいてもらうほかないね。おい……、やれ」
その言葉に、黒服の男達が品子ちゃんを追いかけようとしたとき
「 外道共が…邪魅はらいとは笑わせる 」
「!?」
思ったより、ずっと近くで低い声が聞こえて思わず私は体を震わせる。
び、びっくりしたぁ…
ほんと、リクオの気配だけは分からん…
そんな妖怪だからなんだろうけど…!
し、心臓に悪い!
未だどくどくとうるさく鳴る胸を抑えて私は深く呼吸する。
落ちつけ…
衣面を忘れてるんだから、見つかるわけにはいかない。
その場にいる人間には、まだ誰もリクオがどこにいるか分からず、おろおろと辺りを見回している。
「誰だ、どこにいやがる!?」
「さっさと出てきやがれーー!!」
黒服と、ハセベさんらしき男が叫んだとき
―ゾン…―!
刃が、現れた。
突然。
ハセベさんの首元に。
そりゃもう、恐ろしいってもんじゃあないだろう。
ハセベさん、ご愁傷様です。
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