ななつ


青い海。

天気の良い空。

漁船の泊まる港で向き合う男女。

さぞ微笑ましい光景だろう。

傍から見れば。



「なに、しちゃったのかなぁ?獏くん」

私の言葉に、獏は目線を逸らしながらぼそりと呟く。

「…別に。あいつに取りついた式神を祓ってやっただけ」

その言葉に、私は笑顔を浮かべる。

「なるほどねぇ。良いことしてくれたねー。でもねー、普通の“人間”ってそういうことできないんだよねぇ。知ってた?」

「…」

「知らないわけないよねぇ。そりゃ、リクオくんも怪しがるわ」

相変わらず笑顔の私をちらりと見て、獏は頭をがしがしと掻く。

「…ぁあー!うるせえな!分かったよ!悪かったっつってんだろ」

「いいえ?私は今初めて貴方からそんな言葉聞きましたよ?」

笑顔の私。

「…っ!悪かったな!…これでいいだろ」

ポケットに手を突っ込んで拗ねるように言う獏に私はため息をつく。

「…別に、謝ってほしいわけじゃないのよ。ただ、貴方の行動のせいで私のことまでばれちゃうとつまらないじゃない」

私の言葉に、今度は獏がため息をつく。

「…あんな奴にばれるか?いかにも鈍そうだけどな」

「あら。そう見える?」

その言葉に私は笑って見せる。

「あの子、ぬらりくらりとしてて意外と鋭いわよ」

「ふん。俺にはあいつが夢の持ち主の器量だとはとても思えねぇがな。場合によってはここの神使もやめて他のところを探しに行くぜ」

私を見下ろす獏の目をまっすぐ見つめて私は微笑む。

「それは丁度良かった。貴方が彼を見定められるような機会が今夜訪れるよ。そのときの彼を見ても、そう思えるかしら?」

「…へぇ。楽しみにしてるぜ」

獏がそう呟いた時




「あれぇ〜?こぉんなところで喧嘩かなぁ〜?」

耳障りな声が割って入ってきた。

胡乱気に目を向けると、そこには数人のチンピラ風情。

この町、ほんとにチンピラ多いな。


「彼女可愛いじゃん?そんな男放っといて俺達と遊ぼうぜぇ〜?」

近づいてくる彼らは私の腕をつかむ。

「やべ!マジで超可愛いじゃん!」

「連れてこうぜ!」

私の腕をつかんだ男がぐいっと私を引っ張る。

「…!やめてください」

キレそうになるが、落ち着け私。

獏に説教しておきながら、今ここで私がキレるわけにはいかないじゃないか!

しかし、普通の力では男に勝てない。

数人の男に囲まれて肩を掴まれた。

そのとき


「ぐわぁああ!」

一人の男が悲鳴をあげる。

「獏?」

獏が私の肩を抱いた男の腕を掴んでいた。

「薄汚い手でそいつに触るんじゃねェよ」

呟く獏の手が、男の腕を握りしめて、ぎりりと音までする。

「ひぎゃああ!!痛ェえ!助けてくれ!」

男が懇願するが、獏は耳を貸すことなく更に力を強める。

やばい。

このままではいずれ骨が砕ける音まで聞こえてきそうだ。

「獏!もういいから手を離して!」

「…だけど、こいつは…!」

「獏!」

私の声に、獏は舌打ちして手を離す。

解放された男は涙を溜めて、後ずさる。

「て、てめえ!覚えてろ!必ず仕返ししてやるからな!おい!おめえら!ハセベさん呼んでくるぞ!」

ハセベ?

どこかで聞いたことのあるような名前を叫んで彼らは去っていった。




それを見送ってから私は獏を叱る。

「獏!もう少し“人間”に手加減しないと。さっきも話したけど、今貴方には普通の高校生を演じてもらいたいの!」

「…チッ」

私の言葉に、獏がうるさそうに舌打ちをする。

そんな彼を見上げて、今度は目を細めて柔らかく笑う。

「…でも、助かった。ありがとうね」

「…っ、別に」

そう言って海に視線を移した獏の頬が僅かに赤くなっていて、私はくすりと笑う。

「照れてんの?かわいーねー」

「…!うるせっ!」

あ、やっぱり照れてる。

なんだかんだ可愛いところがあるから憎めないんだよねぇ。

ほうっとため息をついたとき


「お〜い!水姫さん達や〜い!!」

清継くんの声が聞こえた。





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