むっつ
ガタガタ、と窓が風に鳴る音だけが響く部屋の中。
「ん…」
寝がえりした拍子に目が覚めてしまって、私はため息をつく。
(あー、やだなぁ。このまま朝まで寝ていたかったのに…)
そう思ってふと何かを感じて上を見て、全身が固まる。
騒いでいた皆が寝静まる中、“それ”は現れた。
恐怖で皆を起こす声も出せずに、ただ激しい動悸とともに息だけが漏れる。
私たちの枕元に立つ“それ”は間違いなく…!
(ど、どうしよ…!)
―ギュッ
突然、手が暖かいものに触れて、私はびくっと震える。
しかし
「大丈夫。私がいるよ。安心して」
小声で囁かれて私は力の入らない体で首だけを隣の布団に向ける。
「あ…、水姫、さん…」
隣でにっこりとほほ笑んで私の手を握ってくれたのは水姫さんだった。
恐怖なんて微塵も感じさせないその暖かい笑顔に私は安堵で涙があふれ出した。
「大丈夫だよ」
そう囁いて、彼女は両手で私をぎゅっと抱きしめてくれた。
私はただ、その暖かい腕の中で安心して涙を流したのだった。
肩を震わすカナちゃんをあやすように抱いてから、しばらく。
顔をあげて邪魅をよくよく見てみると、何となく全体的に汚れて泥や木の葉が長い髪に絡まっているのを見て同情のため息をつく。
(あぁ、きっと獏にだいぶ遠くまで蹴っ飛ばされたんだろうなぁ)
少し同情しながら見ていた時、廊下の方から走る物音が聞こえて…
―バァアン!
「どこだぁぁ!妖怪ぃいーー!!」
「ひゃあああぁあ!」
清継くんの大きな声にびっくりして腕の中で泣いていたカナちゃんが悲鳴をあげる。
「いたか?島くん、島くんいたか?こっちに出るって奴良くんが言ってたんだ!」
清継くんの声に女子達も起き出す。
「な…、なぁ〜に〜?」
「誰か入ってきたの!?…、暗くてわからん」
ぱちっと巻ちゃんが電気をつけると…
(あ、これはいけないわ…)
フォローのしようがない状態…―島くんが巻ちゃんの胸に顔を突っ込み、清継くんが鳥居さんを押さえてる光景はなかなかにシュールだ。
女の子にこんな失礼な真似をする馬鹿二人には諦めて巻ちゃんと鳥居さんに殴られてもらうことにした。
「何をするんだ!!ボクは妖怪を…!」
「言いワケできる状況じゃねぇだろ、ゴルァア!」
清継くんから鳥居さんを守るように怒る巻ちゃんのもっともな言葉に、私の腕の中で震えていたカナちゃんが顔をあげる。
「違うの、みんな!いたのよ!!おばけが…いたのよー!!」
「え?」
夜が明けてから、必死なカナちゃんの言葉に邪魅がいることを確認した皆は地元の秀島神社に向かうことになったのだが―…
「ちょっと、水姫さん、いいかな?」
「ん?」
こそこそとリクオくんに呼ばれて私は屋敷を出る前に振り返る。
「その、獏くんの、ことなんだけど…。彼とは、…どういう知り合い、なの?」
「…どういうこと?」
突然の質問に頭が急加速する。
「えっと…、変なこと言うけど…、彼って“人間”…だよね?」
…!
あ・の・野郎…!
昨晩、何かリクオの前でしやがったな…!
あらかた予想がついて私は冷や汗をかきながらも精いっぱい笑顔を浮かべる。
「あ、はは…、何言ってるの、リクオくんー。当たり前じゃないー」
かなり棒読みになってしまったが、リクオくんはそうだよね、と頷く。
「へ、変なこと聞いてごめんね!気にしないで!」
そう言って皆のもとへ戻っていくリクオを見送って私はぼそりと呼ぶ。
「…獏?」
「…」
気まずそうに私の更に後ろから現れた獏の腕を強引に引っ張って、私は皆とは違う方向へ足を進めたのだった。
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