よっつ
「あ、水姫!どこ行ってたの?」
春奈に苦笑いしてから、部屋に集まる皆に声をかけて集まってもらう。
どうやら、神主さんが帰った後、夜の警備について清継くんが説明しているところのようだ。
「えー、と、ちょっと、ね。皆に紹介したい人がいて…。この合宿の間だけ一緒に行動させてもらってもいいかな?」
聞くと、まっさきに答えたのは清継くんだった。
「もっちろんじゃあないか!!人数が増えれば増えるほど心強い!ぜひ紹介してくれたまえ!」
その言葉に、私は戸に手をかける。
そして、それをカラカラっと開けた。
「知り合いの、獏くんです…」
フードを目深にかぶり、愛想が悪そうに少しだけお辞儀した獏に、驚いたように声をあげたのは鳥居さんと巻さんだった。
「ああーーー!」
「へ?」
訳が分からずに呆気にとられる私を無視して女子がきゃいきゃいと騒ぎだす。
「水姫さんの彼氏でしょ?」
「ついてきたの?」
「うわぁ!彼女想い!ね、春奈ちゃん!」
その様子に呆気にとられたのは私だけではなかったようだ。
「水姫さん、の彼氏…?」
驚いたように見てくるリクオくんに、私はいやいや、と手を振る。
「ただの知り合いだよ…!何でそんな話になってんのか、私にはさっぱり…」
そう言った私の腕を獏がぐいっと引っ張る。
「ただの知り合いってなんだよ」
「うるさい!あんたは黙っといて!」
そんな様子にリクオくんは、はは、と薄く笑う。
「仲…良さそうだけど…」
「いや、ほんっと違うから!鳥居さんと巻ちゃんも変なこと言わないで!本当に違うから!」
私の言葉に二人は口をとがらす。
「えぇー!違うのー?」
「すごい仲良さそうだったのにー」
その言葉に、私は冷や汗しか出ない。
一体彼女たちはどこで獏と会ったんだ…!
「〜…!とにかく!合宿の間、よろしくお願いします!ほら、あんたもきちんと挨拶!」
「…よろしく」
小さな声で言う獏。
どうやら大勢には慣れていないみたいだ。
「よっし!じゃあ、獏くんも警備の中に入ってもらうぞ!君には頼りないメガネくんのリクオくんと一緒に行動してもう!いいね、リクオくん!」
「…う、うん」
その言葉に、何故かリクオくんは少し戸惑ってから頷く。
「?」
もしかして、もう獏が人間じゃないことがばれた?
いや、そんなはずは…
なんて悩んでいるうちに話は進んでいき、女子は固まって寝ることになったのだった。
三日月が照らす夜。
菅沼家の一室からはわいわいと楽しそうな声が響いていた。
「水姫ちゃん、ほいこれ!」
「はいよ」
巻ちゃんに渡された布団を敷いていき、その上に鳥居さんがダイブする。
「わー!楽しー!合宿って感じがするねー!」
春奈の言葉に、品子ちゃんが笑う。
「こんなに清十字に女の子がいるなんて思わなかった!それはすごい心強いわ!!」
その言葉に、私は笑う。
「私たちも直前で入ることになって、女子全員で6人だもんね。でも、ちょっと多すぎたかな?」
布団の枚数が足らなくて、部屋ギリギリまで布団を敷いて雑魚寝をすることになってしまい、私は苦笑する。
しかし、それに巻ちゃんがあははー、と笑う。
「雑魚寝とか、いかにも合宿じゃん!いいんじゃない?それに、明日は海!」
楽しそうな声に私も頷いたのだった。
「で?で?」
寝よう、と布団にもぐり込むと、巻ちゃんがわくわくした瞳で私を見ているのに気づく。
「?何が?」
首を傾げて問うと、巻ちゃんがにやりと笑う。
「何って、当たり前じゃん!獏くんのことよ!彼氏じゃないの?」
「またその話…!違うってば!」
否定すると他の女の子も話に加わって来る。
「えぇー、でもこの間小林くんに告白されたとき、彼に助けられてたじゃん!」
「あ、ああー…、あの時のことかぁ…って、なんで知ってんの!?」
鳥居さんの言葉に思わず突っ込むと、女の子達は顔を見合わせてふふっと笑う。
「「「秘密!」」」
「…っ!」
女子は結束すると固いからなー。
まぁ、およそ覗き見でもしてたんだろう。
はぁっと息をついて私は首を振る。
「あのね、誤解しすぎ。あいつは私のー…、お守り、役?みたいな…」
「お守り?」
「そう。心配性で過保護な母につけられたの」
その言葉にカナちゃんが納得したように頷く。
「そういえば、水姫さんって一人暮らしだったっけ」
「ああー。それはお母さんも心配するよねー」
「一人暮らしといえばゆらちゃんはどうしたのかなぁー」
「そういえば、品子ちゃんは彼氏とかいるのー?」
よしっ!
うまい具合に話が逸れて行ったことにほっと溜息をついて私は再び布団に潜り込む。
周りを見ると、雪女、…つららはもう寝ていて、私の隣のカナちゃんも何だか冷気を感じながらも寝ようとしているところだった。
さて。せめてカナちゃんが一人で怯えないように今夜はしっかり起きていることにするか。
ん?でも、邪魅ってば可哀想に獏に蹴っ飛ばされたんじゃなかったっけ?
今夜来れるのか?
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[mokuji]
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