みっつ


どこからともなく祭り囃子がきこえてくる。

どこへいっても

―そんな時期には浮かれた人間がわいてくる…。



「ねぇ、水姫…」

春奈に服の袖を引っ張られて後ろを振り向くと、リクオくんがガラの悪そうな男にいちゃもんをつけられているみたいだった。

それに笑って私は春奈の頭を撫でる。

「大丈夫だよ。あんな地元の粋がっているヤンキーなんか彼はものともしないから」

「リクオくんが?」

そう言った私を不思議そうに見てくる春奈は納得出来ないように後ろをちらちらと振り返っていたが、大丈夫そうな様子にほっと息をついていた。

「…心配なら、行ってくればいいのに」

ついぽつりと言うと、春奈は頭をふるふると横に振る。

「…だって」

そう言った春奈の視線の先にはリクオくんに声をかけるカナちゃんと、それを見てる雪女。

「私、邪魔になっちゃうから」

そう笑った春奈の頭をくしゃっと撫でて、清継くん達を追いかけて歩いたのだった。



「奴良くん!!遅いぞ!!」

清継くんが振り返って少し遅れているリクオくんを呼ぶ。

謝ったリクオくんに許さない、決して、とか物凄く心の狭いことを言いながらも清継くんが坂の下を示す。

「妖怪の出る武家屋敷はすぐそこだ!!」

海の近くの綺麗な街が見えた。









蝉の鳴く趣のある道をしばらく行くと、あるお屋敷の前に立つ一人の少女が見えた。

「お。あれか?もしかして」

清継くんの声に反応するように、少女がたたたっと駆けてくる。

「やあやあ、君は…」

「あなたが清継くんね!!」

清継くんの言葉を無視して少女がリクオくんを見る。

「大丈夫かしら…、メガネはメガネでも頼りなさそうなメガネ男子って感じだけど?」

その言葉に、私は苦笑して清継くんを示す。

「清継くんはあっちの天パの方だよ」

そう言うと、彼女は清継くんを振り返って口に手を当てて眉をひそめる。

「え?こっちの天パの方?あらぁ…、これはこれで……不安」

その言葉に清継くんが憤慨する。

「キミ何だ!天パのどこに問題があるんだ!?だいたい、水姫さんは失礼だぞ!」

「あぁ、そっか。…これは失敬」

「全然心がこもっていない!!」

原作での流れで、ついつい天パ呼ばわりしてしまったら怒られた。

怒られるのは当たり前だが、謝ってもやはり許してくれない清継くんはやっぱり心がせまい。


「依頼人の菅沼品子です。来てくれてありがとう…、でも大丈夫かしら。一応期待してます」

その自己紹介に皆ぽかんとする。

まぁ、本音言っちゃう素直な子だからね。

「初めまして。早速だけど上がらせてもらってもいいかしら?」

声が出ない皆の代わりににこりと笑って言えば、品子ちゃんが頷く。

「どうぞ」

それにようやく清継くんが言葉を発する。

「フッハッ!!すごいボロ屋敷だ!奴良くんとこよりボロいんじゃーないかい?」

相変わらずの心の狭い…というか根に持つ発言だが、清継くんの言葉で皆の雰囲気が明るいものになる。

やっぱりすごいよ、彼は。


そう思った時


『その子に近づくな』


「!」

「あ」

私とリクオくんだけが振り返る。

その視線の先には――


「は?」



原作通りならば、誰もいないはずのそこ。

何かを蹴りあげるかのような姿勢でばっちりと目があった彼は―


「ば、く…?」

「やべ」

いないはずの彼が、如何にもしまった的な感じで顔を歪めて立っていた。

「水姫、さん?知り合い?」

リクオくんの言葉に、私は冷や汗をかきながらもぎこちなく頷く。

「ま、まぁ…そんな、感じ、です。ちょっとごめん、皆で先行っといて」


リクオくんの不審そうな目から逃げるように、私は獏のもとへ向かったのだった。





「何でいるの!?今回、危険とか全っ然ないから家で待っててってあれほど言ったじゃん!」

私の言葉に、獏がうるさそうに耳をふさぐ。

「なんで、神使が家でお留守番なんだよ。可笑しいだろうが」

「可笑しかろうが何だろうが、あんたがいるとややこしくなるの!…しかも、リクオにばれるじゃない…!」

私がいくら顔を隠せても、神使として常に彼が傍にいたら一目瞭然ではないか。

「何だよ、ばれたら何か悪いことあるのか?」

胡乱気に聞いてくる獏に、私はむくれる。

「…つまんないじゃない」

はぁ、とため息をついた私を獏が意外そうに見つめる。

「何よ」

ぶすっとして聞くと、獏がいや、と口ごもる。

「あんた、案外神らしいところあるんだな」

「はぁ?」

意味のわからないことを言う獏のみぞおちをとりあえず軽く殴っておく。

「とにかく、見られちゃったもんは仕方ないから皆に紹介するよ。ついてきて」

そう言って屋敷に向かおうとして、私はふと獏に聞いてみる。

「そういえば、ここに妖怪いなかった?」

私とリクオくんは邪魅の声に反応したはず。

その言葉に獏は、ああ、と頷く。


「いや、なんか、ここに陰気そうなのがいたけど、あんたらに危害加えるつもりなのかと思って蹴っ飛ばしちまった。どっか飛んでったな」


「…」


もしかして、邪魅退治完了ですか?





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