ななつ
「なんだと…?」
ぴくりと眉をあげた竜二に私は笑って手をまわして見せる。
そうすれば、竜二の持っていた竹筒から水がしゅるりと勝手に動き、円をかく。
さすがに驚きを隠しきれない竜二に私は首を傾けて言ってみる。
「分かってもらえた?私の方が力が上だってこと」
「…お前、なんの妖怪だ?」
「んー…、妖怪じゃないんだけどなぁ。信じてくれる?」
その言葉に、竜二は一瞬黙ってからにやりと笑う。
「…じゃあ、お前の存在は一体なんだ?」
「水神」
短く言った私に、竜二は表情を変えずに少し黙ってから聞く。
「証明できるか?お前からは神気を感じないが…?」
その言葉に私は苦笑して首を振る。
「だって、今あなたに分かるように神気を出せば、この子たち消えちゃうもの」
下に踏みつけている鬼を示せば、竜二は、はっと笑う。
「神のくせに妖怪を守るのか?」
「“神のくせに”?それは違う。基本的に神は生かすことも殺すこともしない。ただ見てるだけ。面白そうだと思ったら気まぐれに手を貸したりはするけど。そんな中でも私は特殊だから。私の手の届く範囲の人は守ってやりたいと思ってるんだ」
その言葉に、竜二の顔が険しくなる。
「それが妖怪でもか?」
「ええ。それが私ですもの」
笑った私に、竜二が諦めたように笑う。
「ふん、そうかよ。…まぁ、今回はあんたの顔に免じてそいつらも見逃してやるよ。またどこかで会おうぜ、水神さん」
くるりと背を向けた竜二が笑みを浮かべていることが私には分かった。
「―…やれ。魔魅流」
―バリッ…!
いつの間にか水の縄から抜け出していた魔魅流が後ろから攻撃をしてきた。
「い、たぁ…」
それをもろにくらって私は倒れる。
「くくく。言葉に騙されやがって。油断したな。お前がべらべらしゃべっている間に魔魅流の水をオレの金生水で溶かさせてもらったぜ」
振り返った竜二が私を見下ろす。
「神だと?誰が信じるか。この世は陰と陽。それならば神とは光と影をつくりだす、いわば太陽だ。そんな存在がおいそれと街に降りてくるわけねぇだろうが」
竜二の言葉に思わず笑いが漏れる。
「あ?何笑ってんだ」
竜二の不機嫌そうな声を聞きながら私は立ち上がる。
「あーぁ。服が汚れちゃった」
ぱたぱたと地面の埃を払う私に魔魅流が再び攻撃をしかける。
それを水の壁で防いでから竜二ににっこりと笑う。
「母様はね、昔よく都に降りては人と遊んでたんだって。神様を有難がるのはいいけど、勝手に設定をつくっちゃいけないよ。だって、失礼でしょ?…ま、そう思ってくれているからこっちとしてはバレずに人の中に入り込めるんだけどね」
私の言葉に竜二は眉をひそめる。
「んー…、まぁ、いいや。まだ信じてくれない方が私としては都合がいいし」
リクオに竜二を通して私のことがばれたりしたらやだもんね。
あいつがきちんと私を見つけてくれなきゃ、嫌だ。
「あ、そうそう」
下に伸びている鬼どもを担いで私は竜二に笑う。
「忠告。羽衣狐が復活した。京都の封印が危ないよ。花開院家に対策を早めに立てるようお勧めする」
言いながら、私は心の中でため息をつく。
これぐらいじゃ、きっと未来は変わらない。
私自身が動かないと。
でも、それは私の手の届かないところ。
ごめんね。
ごめんね、秀爾、是人。
会ったことのない人たち。
少し、目を閉じてから私は再び笑う。
「嘘つきが堂々と嘘つくの、私は好きだよ」
ふわりと浮かんで手を振る。
「私も嘘つきなの。私はただの人ってことで一つ、どうぞよろしく」
「…いいの?竜二」
暗く沈んだ京都の空に消えたそいつを眉をしかめて見送った竜二に、魔魅流が言葉少なに言う。
「仕方ねェだろ。あいつが神だろうが妖怪だろうが力はオレ達より上だ。あいつは実力の一割も出してなかった。…学べよ、魔魅流。相手との実力を測るのも戦術のうちだ」
そう言って路地裏を歩きだした竜二に、魔魅流は黙って続く。
「ったく、あの野郎。自分も嘘つきだと?みえみえの嘘をつく奴なんざ嘘つきじゃねェんだよ」
暗い路地裏に竜二の声が響く。
「ただのほら吹きだ」
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