はたちあまりむっつ



「な、ぜ…?」

呆然と呟く私に、ぬらりひょんはにやりと笑んでみせる。

「さぁて。どうしてじゃろうのう。…知りたいかい?」

ぬらりひょんの言葉に黙って頷けば、彼は顎をさすりながら、さらに意地の悪い笑みを浮かべる。

「さてさて。それじゃあ、うちで茶ぁ飲んでいくかい?それともお嬢ちゃんとは“かふぇ”がいいかのう?」

「…それは、」

「それとも、リクオに今紹介してやろうかのう?隠しとるんじゃろう?自分の正体」

ふぉっふぉ、と笑うぬらりひょんに私は思わず舌打ちをする。
この狸じじいめ。

観念して私はため息をつく。

「…分かりました。招待されましょう。ただ、連れがいますので、今晩、そちらへ伺います」

その言葉に満足そうにぬらりひょんは頷く。

「そうかい、来てくれるかい。そりゃあ嬉しいのう」


って、あんたが脅したんだろうが。

笑うぬらりひょんに、私は心の中で突っ込みを入れて再び背を向けた。

「待っとるよ」

嬉しそうな声を背中で聞いて、私は明るく染まった空へ昇っていった。









「犬神、帰ろう」

犬神のいるビルの屋上にふわりと着地して言うが、犬神は針女の遺体の傍に座り込んだまま動かない。

「犬神…?」

首を傾げる私に、犬神は小さく尋ねる。

「針女は、どうするんぜよ」

言われて私は針女に目をやる。

「玉章が、供養する。だから、彼女の遺体は彼に渡すよ」

その言葉に、犬神は小さくそうか、と呟いた。

それでも動かない彼に私は小さくため息をもらす。

「どうしたいの?犬神」

「オレは、それでいいぜよ。針女もきっと四国へ帰りたいと…「違うよ」…?」

犬神の言葉を遮る。

「“あなた”がどうしたいの?犬神」

「…っ、」

彼が何を迷っているかぐらい、分かる。

「オレはっ…」

犬神が俯いたまま、ぎりっと唇を噛む。

「オレはっ…、分からんぜよ…!」

泣きそうな声に私はそう、と呟く。

「ねぇ、犬神。選択肢はたくさんあるし、そのどれを選んでも良いんだよ。それはあなたの人生だから。でも」

私は、すぅっと息を吸う。


「でもね、後悔だけはしないで」


後悔。

それはとても悲しくて苦しいもの。

一度人生を終えた私だからこそ分かる。

親友とは前日に喧嘩して。

大好きなあの人にも告白できないまま。

やりたい夢もあった。

親孝行も、出来なかった。

やっておけばよかった。

せめて、あの世界でお世話になった人たちに、きちんと一度でもありがとうと、言えればよかったのに。

どうして、

どうして私はそれをやらなかったんだろう。


「後悔は、自分を責めること。これ以上、あなたは誰からも責められる必要はないよ。例え、自分自身からだとしても」

うなだれる犬神の手をそっと取り、立たせる。

「ほら!背筋しゃんとのばして!自信持って自分の道を行きなさい!」

ばしんっと彼の背中を叩いて、私は笑う。

「大丈夫。何があっても、私は犬神の味方だから」

その言葉に、一瞬目を見開いた犬神は少し恥ずかしそうにそっぽを向いた。

「##name_1##が味方でも、頼りないぜよ」

可愛くない言葉に、私は犬神の髪をぐしゃりとかき混ぜた。

ぐちゃぐちゃになった犬神の柔らかな茶色の髪が、朝の風によそりと揺れたのだった。




こうして、四国八十八鬼夜行との戦いの夜は明けた。



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