はたちあまりよっつ


「何だ?あの女は…」

「四国の妖怪連れて空飛んでるぞ…?」

「敵じゃねぇのか?」

「しかし、リクオ様が助けたぞ…?」


眼下で、奴良組の妖怪が戸惑っていたが、それに構っている暇はない。


近くのビルの屋上に降りて、面を外して私は針女の脈を確認する。

―ドク…ン、…ドク…

心臓の音がどんどん小さくなる。

「針女、しっかりして。まだ、死なないで…!」

傷に手をあてて力を使うが、血は止まらない。

そのとき


「針女!」


空中を翔ける黒い馬の背中に乗ってやってきたのは犬神。

「い、ぬ…がみ…?」

ぼんやりと針女が犬神の方を見る。

「あん、た、死んだんじゃ…」

その言葉に、犬神は首を振る。

「こいつに、助けられたんぜよ」

針女は目を見開いて私を見る。

「あ、あ…。そう、いえば奴良組の、妖怪は…、玉章があんたを殺そうとした、としか…。私は、あんたの姿が見えないから、てっきり…」

「針女、しゃべらないで。傷が悪化する」

傷口を押さえる私の手を針女は震える手で止める。

「も、いいよ…。自分が、助からないのは、分かってる…」

「…!」

否定することが出来ずに私は唇を噛み締める。

そんな私の顔を見て、針女は静かに笑った。

「そんな、顔をしないでおくれ…。あんたと、私は、そんな、に深い関係じゃ、ないだろ…」

「そんなことはない!私はあなたに助けられた!恩を返せずに誰が神なんて名乗れるか!」

私の激しい言葉に針女は驚く。

「あんた、神様…だったのかい…。ふふ、妖怪の、私が、神様に見届けられて…逝くなんてね」

針女の手がゆっくりと私の頬を撫でる。


「小さな、神さん…。私を助けようとしてくれて…ありがとうね。それから…」

閉じかけた目で犬神を見る。


「犬神を、よろしく…ね」



ゆっくりと針女の瞼が閉じられた。


「針、女…?」

犬神が呆然と呟く。

「なぁ、おい…、水姫…!針女は…!」

犬神の言葉に、私は首を振る。


変えようと思った。でも、変えることが出来なかった。
私の力では…

「本当に、私の力は…至らない…!!」

ぎゅうっと私は自分の腕を握る。


「ごめんね、ごめん…!」

俯いた私の頬から落ちた滴が床に染みをつくる。

「ごめん…!」

ぎりり、と強く握られた腕が悲鳴をあげる。

その時

「…やめるぜよ」

腕を掴んでいた手が、犬神に剥がされる。

「水姫のせいじゃねェ。…針女の顔は、穏やかぜよ」

言われて私は針女を見る。

穏やかに眠るように横たわる彼女を見て、私は目を見開く。

「妖気が…吸われてない…?」

玉章の“魔王の小槌”は、死んでいった者の恨みや憎しみを背負う。

すなわち、斬られた者は死んだ後も恨みながら刀となり使われるのだ。

なんて残酷な。

しかし、針女はそうならなかった。

死を恨むことなく、逝ったから…?

私は、彼女の心を救うことが出来たのだろうか。


「犬神…!私は…!」

顔をあげた私の頬に流れた涙を犬神がぺろりと舐めた。


「…!!?」


突然のことに呆然とする私に、犬神が笑う。


「お前に、涙は似合わんぜよ」

「…!だからって…!」

何も舐めなくても…!!

真っ赤になった顔を手で隠しながら、私はべしんと犬神の頭を叩いた。


「いってぇえ!何すんだよ!」

「うるさい!恥ずかしいことすんな!」


叫ぶ犬神に私は怒鳴り返してから、ぱちんと自分の頬を叩く。

「…でも、ありがとう。お陰で元気でた」

そう。戦いはまだ終わってない。

彼と直接、見守ると約束したから。



見上げると、空が白んできているのが見えた。

そろそろ決着がつく。


「犬神、きちんと見届けよう」

そう言った私に、犬神が頷いた。


その時


「あ、そうだ。水姫様。遅くなりましたが報告です」


その声に驚いて後ろを振り返ると、黒い馬の姿。

そう言えば、犬神は黒馬に乗ってやってきたんだっけ。

すっかり存在を忘れていた。

「様子を見て来いと言われた電車、少々遅れてるようですよ」

「え…?」

確か、ぬらりひょんが来るはずだから様子を見てきてほしいと黒馬に頼んでおいたのだ。

もうすぐ決着がつくというのに、ぬらりひょんはまだ到着しない。

原作と、ずれている…?

「な、なんで、そんな大事なこともっと早く言ってくれなかったの?」

尋ねると、黒馬は不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「何やら入りずらそうな雰囲気でしたので。…そこの犬妖怪と」

「…!」

黒馬の言葉で先程のことを思いだして再び顔に熱が集まる。

そういえば、黒馬にも見られてたのか。

「…もういい」

ぷいっとそっぽを向いて私は眼下の戦場を見つめる。

リクオが人間に、なりかけている。

原作からずれているのならば、玉章は…


しかし、いくら原作に戻すためと言っても、沢山の者を傷つけ、殺した玉章を私が…助ける…?


私は、どうすれば…


頭がぐちゃぐちゃで答えがでないまま、私はただ、戦う二人を見ていた。




[ 58/193 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -