はたちあまりみっつ



「は、り、女…?」

辿りついた先の彼女は玉章の足元で赤く染まっていた。


斬ら、れた…

でも、生きてる。

私が治せれば…!

刀を振りまわす玉章の刀を持っていた水切で弾いて、針女を抱き起こす。

「針女、しっかり!」

私を見て針女は驚いたように目を見開く。


「あ、んた…、馬鹿、だねぇ…」

針女が血のついた唇を動かす。

「せっか、く、助かったんだから…、こんなところに、来なけりゃ…いいのに…」

薄く笑う針女の傷を、素早く私が触診する。

そのとき


「ああ…、やっぱり君もきたんだね。君も、ボクの力となるがいい」

「っ!」

頭上からの声に私は慌てて刀を構える。

それに笑いながら玉章が刀で斬りかかってくる。

玉章の攻撃をどうにか水切で弾くが、針女を庇いながらでは体勢が崩れる。

合わせた刃を強く玉章に押され、ぐらり、と体が傾く。

「くっ…!」

針女を庇うように倒れた私目掛けて長い髪で振り回された刀がぐるりと背後から突き出された。



この妖刀には水が斬られる…!

防御、が、間に合わない…!


目を見開く私に映るのは刃こぼれしながらもなお鈍く光った刀の先端

その切っ先が衣面に届いて、パリンッと小さくひびが入る音が聞こえた。

駄目、だ…

斬られる…!




「こいつには、手ェださねェでもらおうか」

鈍い光を遮り、代わりに映ったのは白い、羽織


「リ、クオ…?」

思わず震えた声で、守ってくれた人の名を呼ぶ。

リクオは私をちらりと見て笑う。

「お前、オレを見守るって言ってたよな?」

その言葉に、私は小さく頷く。

あなたを見守る、とこの世界を理解したときに決めた。

それを見てリクオは口の端をにやりとあげる。



「ならな、オレを見てろ。オレの近くで。お前がオレの近くにいる限り、オレがお前を守ってやるよ」




声が、でない

私が、守ろうと思った彼は、

こんなにも

こんなにも大きかったのだ。


「返事はどうした?」

悪戯っぽく尋ねてる彼に、私は同じように悪戯っぽく笑ってみせた。

「守って、ください。でも、守られっぱなしは柄じゃあないんだ。だから…」



再び振り被られた玉章に刀を今度は私の水切で弾く。


「あなたの背中、私が守ってあげる」

ふふ、と笑った私にリクオは楽しそうに言う。

「心強ェ言葉じゃあねェか。…ともかく、ここはオレに任せてその女連れて離れろ」

その言葉に頷いて、私は針女を抱き上げて空を駆けたのだった。






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