はたちあまりふたつ


道楽街道―…

怪しげな風が吹き抜けるそこが人ならざる者たちの戦場と変わり果てるまであとわずか。

人が畏れ、逃げるその場を見つめる人影。

百鬼を引き連れたそれぞれの大将が睨みあう中、ひゅるりと風が鳴る。

緊迫した空気の中、先に動いたのは白銀の髪を風になびかせた男だった―…







「始まった…ね」

地面のうなるような百鬼の戦闘を面をつけた私は静かに見つめる。

「…これの結末をね、私は“知ってる”けど“分からない”んだよ」

「?」

じっと玉章を見つめる犬神に話しかけると、犬神は私をちらりと見る。

「ただ、“知ってる”未来に繋げようとしているのだけども、変えたい未来もあるんだ。そんな私の考えで誰かの運命を変える権利は私にあるのかな。ねぇ、犬神」

妖怪たちに認識されることなく悠々と大将のもとへ歩む彼の姿を目で追いながら、私は犬神に問いかける。

ビルの屋上で、玉章の姿を見つめていた犬神はその言葉に私を見る。

「…?何を言ってんのかよく分からんぜよ」

その言葉に私は自嘲するように笑う。

「はは。分かってるよ。理解出来るはずが、ないんだ。誰にも。―…ねぇ、犬神。私は、あなたを助けて、…良かった?」

その言葉に、答えは返らない。

それも、知ってて聞いた。


私たちは、あとは言葉もなくただ、静かに、静かに、夜の決戦を見つめた。








「玉章…!!夜雀…」

百鬼の入り混じる中、直接の大将戦で雪女に夜雀が凍らされ、玉章がリクオに一閃斬られて犬神が身を乗り出す。

その手がぎりり、と握りしめられるのを見て、私は問う。

「自分が、あの場にいたら、と思ってる?」

それに犬神はぐっと唇を噛み締めてから、俯いて小さく首を振った。

「…オレは、玉章に、捨てられたんぜよ…。今更…」



その言葉に私は、そう、と短く呟いた。

その時だった。

次々と四国の妖怪がやられていく中、リクオと対峙していた玉章が呟く。

「どいつもこいつも、役に立たない奴らだね…」

ゆらりと玉章の髪が風もないのにそよぐ。

「ま…関係ないけどさ…」

しゅるり、と手に持っていた刀を毛が巻き取る。

「所詮、使われる存在だからな」

すぱりと周りの妖怪の首や体が斬られてちぎれる。


「お前達…ボクの為に…身を捧げろ」



「玉、章ぃい…!!」

犬神の声が、その場の悲鳴に混じり私の耳に届いた。

それを聞きながら、私はある一点を見つめていた。

仲間を斬る玉章を驚いて見つめる奴良組の幹部達と―…針女。

彼女の未来は…?


『あんたを助けたわけじゃないよ』



数刻前に、数は少ないけれども言葉を交わし、助けられた。

素直ではないけれど、優しい貴女に、私は生きてて欲しい…!

そう、私が望んだ。

神の私が、望んだのよ。


ねぇ、助けてもいいでしょ?


私は、ビルの屋上から、飛び出した。







「玉章様…!」

玉章に駆け寄る針女。

彼女に迫る禍々しい刃。


間に、合え…!


少し遠くのビルから眺めていたことを今更ながらに後悔する。

この戦いは、私が手を出す幕ではないと、判断したから。
ただ、遠くから見守ろうと。


「おやめ下さい!!」

針女が玉章の前に出る。



針女…、待って!

それ以上前に出ないで…!

私が着くまでもう少し、もう少し待って…!

風で羽織がばさりと煽られた音が耳元で響く。


「仲間になにを…」


玉章が振り返り、針女を見る。

そして、その手を振り被り―…


「やめて!玉章!!」




赤い色が華のように散った。




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