とおあまりななつ


「えー、と、ちょ、リクオくん?」

腕を引っ張ったまま、ずんずんと歩くリクオくんに声をかけるが、リクオくんは聞こえてないのか彼にしては厳しい顔つきのまま歩き続ける。

そんな彼の横顔を見て、私はふぅっとため息をつく。


「…リクオくんのせいじゃないよ」

ぽつりと言えば、リクオくんはぴたりと足をとめる。

「これ、さっき外でけが人拾ったの。そん時についた血」

制服の血を指させば、リクオくんは驚いたように目を見開く。

「え…、それ、体育館の騒ぎの時に怪我したんじゃないの?」

そう言うリクオくんの言葉に私はやっぱり、と息をつく。

恐らく、リクオくんは自分のせいで私が傷ついたと思い込んでたみたいだ。

「違う違う。まーったく関係ないから」

手を振って笑えば、リクオくんも安心したように笑う。

「あはは…、そっか、ごめん。なんだか早とちりしてたみたいで…」

「ん。気にしてないよ。だから、保健室行かなくてもいいんだけど」

そう言えば、リクオくんは首を振って強く言う。

「ダメだよ!そんな血のついた制服だと目立つから保健室で代わりの服貸してもらった方が良いよ!」

あ、なるほど。

「うーん。確かに。じゃあ、やっぱり保健室行きますか」

その言葉に、リクオくんは力強く頷いたのだった。





「そういえば、高尾さん、さっきボクのこと名前で呼んでくれたよね」

突然の言葉に私は一瞬呆けた後、ああ、と頷く。

確かに、今まで奴良くんと呼んでいたのだけど。

夜の姿を見ると、奴良くんって感じじゃなかったからついそのままリクオくんと呼んでいたみたいだ。気付かなかったけど。

「ダメだった?」

言えば、リクオくんはぶんぶんと首を振る。

「全然!むしろそっちのほうが良いよ!」

そう言うリクオくんの顔が可愛くて、私は思わず頬をゆるませる。

「そっか。じゃ、リクオくんも私のこと、水姫でいいから」

その言葉に、ぴしりと固まるリクオくん。

「え、い、いや、それは…」

「?ダメ?家長さんのことも名前で呼んでるのに?」


少し意地悪く言えば、リクオくんは顔を真っ赤にさせて口をぱくぱくさせる。


「う…え、と…、その、……水姫、さん?」

「よく出来ました」

名前を呼んだリクオくんの頭をぽんっと撫でて、私は笑う。

いやぁ、なんか体育館でリクオくんに見守るって言ったことですごく親しみが湧いてしまったというか…

かわいいな、昼のリクオくん!






そんな話をしているうちに、私たちは保健室につく。

ノックをして中に入るが、どうやら保健の先生は留守みたいで、リクオくんと顔を見合わせる。

「…勝手に服、探しちゃおっか」

リクオくんの言葉に賛同して、二人で手分けして服を探す。

なかなか見つからなかったが、ベッドの下に体操服を見つけて私はリクオくんに声をかける。

「あ〜。もうこれでいいや」

で、早速着替えようとしたんだけど…


「…リクオくん。大丈夫?」

彼は机の上で探す格好のまま、うたた寝をしていた。

…相当、疲れがたまってんだろうなぁ。

確か、四国の八十八鬼夜行が襲来してから寝てないんだっけ。

このまま寝かせてあげたいけど、それはいろいろとまずいな。

「…」

誰も見ていないことを確認して、私はリクオくんの頭に手をかざす。

ぽうっと淡く青い光がゆらりとリクオくんを包んで消える。

それを確認してから、私は彼の肩を揺さぶる。

「リクオくーん、起きてー」

「う、あ…?うわ、ごめん!寝てた!」

ばっと飛び起きたリクオくんに苦笑して私は言う。

「疲れてるみたいだね。私はもう大丈夫だから早めに帰りな?」

その言葉に、リクオくんが申し訳なさそうに頷く。

「う、うん。ごめんね。…じゃあ、気をつけて帰ってね、##name_1##さん」

「ありがとう。リクオくんも気をつけて」

手を振ったリクオくんの顔色がさっきよりも良くなっていて少し安心する。

あれ程度じゃ気休めにもならないけど、気分的にはマシなはず。


決戦は今夜。


少し雲のでてきた空を、私は保健室の窓から見上げたのだった。





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