とあまりむっつ


「カンパーーイ!!」

「清継くん、当選おめでとーー!!」


清十字怪奇探偵団が集まる教室では皆が集まり、お菓子とジュースで宴会を催されていた。

「あれーー?春奈、どうしたの?」

そんな中、巻が一人うなだれている春奈に声をかける。

「…水姫が、いないんだよね」

「え〜〜?あ、そういえばリクオ達もいなくね?」

「ほんとだ。どこ行っちゃったんだろ?」

「ま、大丈夫でしょ。迷子じゃないだろうし」


皆が笑う中、春奈だけが顔をくもらせていたのだった。






「白馬、黒馬。いるよね?」

体育館から出てすぐに屋上へ上がった私は、衣面をとって、声をあげる。
その瞬間、風が巻き起こり、二頭の馬が姿を現す。

「お呼びでしょうか?」

「あはは、やっぱりいた」

私が笑うと、黒馬が怒ったようにぶるる、と鼻を震わせる。

「当たり前です。あんな爆弾発言を投下されたんだから心配して見に来るのは当然でしょう」

黒馬の言葉に私は笑顔で頷く。

「うん。ごめん」

「ごめんではありません。そもそもどういうことですか、あの言葉は。水姫様ほどの神が百鬼夜行に並ぶなんてこと、あっていいはずがありません」

「あ、ああ、それは、なんていうか、つい…。私もなんであんなこと言っちゃったのか…」

夜の姿になったリクオに言われた百鬼夜行への誘い。

断るのが一瞬もったいなく思った、のかもしれない。

いや、ほんと自分でも分からないが。


「ま、それは置いといて…、この子なんだけど…」


抱えていた犬神をそっと下に降ろす。

「ああ。まずいですね」

白馬が匂いを嗅いで目を細める。

「相当、血が流れてます。この穢れは水姫様にはよくありません」

その言葉に、私はため息をついた。

「白馬、そういうことと違うから…。とにかく、治療するから力を貸して」

今度は、私の言葉に二人がため息をつく。

「全く。妖怪ごときに力を使うことになるとは」

「何言ってる白馬。タカオカミノカミ様のときもあっただろう」

「白尾様の場合は、妖あがりの神だから良いのです」



「?」

二人の会話はよく分からなかったが、とりあえず私は横たわらせた犬神に手をかざす。


「流れる水よ。穢れを祓い、この者に癒しを」


言葉とともに、淡くゆらめく青い光が犬神を包み込む。

その私の両隣りに、白馬と黒馬も膝を折って鼻づらを犬神にくっつける。

淡かった光が徐々に強くなり、流れ出る血が止まり、裂けた傷にゆっくりと新しい肉が盛り上がる。


どれくらい治療を施していただろうか。

犬神の体の傷が見た目的に完治した頃には、額から流れた汗がぽたりと落ちて床に水たまりをつくっていた。

「…ふぅ。白馬、黒馬、ありがとう」

すっと腕を降ろして、私は息をつく。

「お安い御用です」

そう答えてくれる白馬にもう一度お礼を言ってから、私は犬神を見下ろす。

まだ目は覚まさないが、体の傷は癒えた。

今夜の戦いを、彼は見なければいけない。

信じていた玉章の姿を。



目を閉じている犬神の頭をそっと撫でたとき、不意に屋上へ続く階段からがやがやと声が聞こえた。

そこでおぼろげな記憶を思い出す。

…なんか、リクオ達って屋上で雪女に怒られるんじゃなかったっけ…?

…!!

「まずい…!白馬、黒馬、犬神を連れて家に戻って!リクオ達が来ちゃう!」

両隣りにいた二頭の背中をぱしん、と叩いて私は小声で言う。

頷いた白馬の背中に、そっと犬神を乗せると二頭はあっという間に姿を消した。



その瞬間

―バンッ!

「リクオ様、首無、そこに座りなさい!」


…あ、危なかったぁ…。

まさに間一髪のタイミングに、私は首筋の冷や汗を拭う。

「あ、あの、雪女…?落ち着いて…」

「これが落ち着いていられますかぁ!」

「これには、事情が…、って、うわっ!」

雪女を宥めていた首無がふとこちらに気づいて声をあげる。

首無の視線を辿ったリクオくんも顔を青くさせる。

「高尾、さん…?」

「あ、はは」

とりあえず笑って手を振ってみた。

「なんか、お取り込み、みたいだね。私、邪魔みたいだし、退散するね」

そそくさと逃げ出そうとした私の手が誰かに引っ張られる。

「待って下さい」

首、無…?

「その血、どうしたんですか?」

「?」

言われたことが分からずに首を傾げるが、指を指されたところに視線を向けて私は身体を強張らせる。

制服に、犬神を抱えたときの血がべっとりとついていた。

「こ、これ、は…」

言葉に詰まった私をじっと首無が見つめる。

うう…。この爽やかな面が憎たらしいぞ。


そんな私に助け舟をだしてくれたのはリクオくんだった。

「首無、何してんの!?その手を離して!高尾さん!その血、大変だよ!今すぐ保健室へ行かないと!」

ぐいっと今度はリクオくんに手を引っ張られる。

「つらら、ごめん!ちょっと待ってて!高尾さん保健室に送ったらすぐ戻って来るから!」

「えっ、ちょっ。若ァーー!?」


雪女と首無が叫んでいたが、私もおんなじ気分だよ!

助かったけど、助かったけど…!

今度はどうすればいいんだぁ!


リクオくんに手を引っ張られて階段を降りながら私はぐるぐると頭を高速で回転させていたのだった。



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