とおあまりいつつ



「な、お前、誰ぜよ!どういう…、どういうつもりぜよ!」


襟首をつかんだ犬神が私を見て叫ぶ。

面をつけているから私が水姫だとは分かっていないようだ。

私はすうっと目を細めて犬神の顔を掴む。

「ちょっと黙ってててね」

うっすら犬神を青い光が包んだ瞬間、犬神は目を閉じて力を失ったようにぐらりと倒れた。

それを片手で支えた私に、玉章が面白そうに問う。

「なんだ。君も結局そいつを殺ったのかい?」

「…玉章。君は、気付けなかったみたいだね」

問いに答えることなくそう言った私を玉章は目を細めて見つめる。

「君が言ってた、“味方”とやらのことかい?君の言った通り考えたよ。だから、そいつを消すことにしたんだけど、違っていたかな?」

「…」

私は答えない。

そのとき

「おい」

ようやく作動したプロジェクターが私と、玉章とリクオの影を映し出す。

「お前は、誰だ?」

その言葉は、玉章に向けて問われたのか、私に問われたのか。

答えは、彼の目を見れば明らかだった。

しかし、反応したのは玉章だった。

「奴良リクオくん…。久しぶりだね。まさか君がそんな立派な…姿になるとはね。君をどうやらみくびっていたようだ」

リクオと玉章の視線が交わる。

「ふふ…。君は面白い。闇に純粋に通ずる魔道―…。そして」

玉章が私を見る。

「底の知れない“畏れ”を持った君。君たちにならボクが名乗るにふさわしい」

サワリ、とどこからともなく吹く風が木の葉を散らす。

「ボクは、四国八十八鬼夜行を束ねる者。そして八百八狸の長を父に、持つ者」

妖怪・隠神刑部狸

名を――玉章

「君の“畏”をうばい、ボクの八十八鬼夜行の後ろに並ばせてやろう―」

「…それはこっちのセリフだぜ…豆狸」

うおぉ。
メンチの切りあいかっこいい。

ピリピリとした緊張感の中で場違いなことを考えていた私に、変化した玉章が顔を向ける。

「君も、ボクの誘いを断ると言うのなら―…力づくでも並ばせてみせるよ」

その言葉に顔をしかめる。
面のせいで玉章には見えなかっただろうが。

「ならば、全力で拒否させてもらう」

その言葉に、ふふ、と笑って玉章はゆっくりと闇にかえる。

「それでは、さらばなり。また会おう」

ぱさり、と残った葉をリクオが捕まえる。

「…。芝居がかった狸だ…」

それじゃあ、私も退散するか。とリクオにくるりと背を向けたが、それをリクオがひきとめる。

「そいつ、死んでるのかい?」

こいつ?
ああ。犬神のことか。

「いいや。眠らせただけ」

背中を見せたまま私は答える。


「なぁ、あんた。一体何者か答えちゃくれないのかい?」

その言葉に私は振り向いて、くすりと笑う。

「自分でつきとめてごらん」

その言葉に一瞬目を見開いた後、リクオは面白そうにくつくつと笑う。

「そうかい。俺があんたの正体つきとめたら、俺の百鬼夜行に並んでくれるかい?」

「ちょっ、リクオ様!」

その言葉に雪女達が慌てる。
私もびっくりしてリクオを見るが、その目はまっすぐ私を見つめていた。

「…その時に考えるよ」

「ふふ。覚悟してろよ」

私の答えに満足したのか、リクオは笑うとくるりと踵を返す。

「リクオ!」

思わず声をかけていた。

「君を、見守っている」


見守っているよ。ずっと。
君たちを。

そう言い残して、私も暗闇の中に姿をくらませたのだった。




「…リクオ様」

首無に声をかけられて、かたまっていたリクオはその言葉に頷く。

「あ、ああ。…早く消えるぞ。終幕だ」

その瞬間、スクリーンをビキビキ、と突き破って清継が登場する。

「妖・怪・退・散ー!!」


「すげー!やっぱり清継の演出かよー!!」

こうして全ての“人間”に知られることなく、前哨戦は幕を閉じたのだった。




「リクオ様?何だか楽しそうですね?」

舞台から降りたリクオに雪女が不思議そうに問う。

「ん?ああ。楽しみが、できたからな」

「?」

見守っている、と言われた言葉が頭の中に響いている。


「必ず、あんたを…見つけてやるよ」


闇に呟かれた言葉は、誰にも拾われることなくころりと転がった。






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