とおあまりよっつ


「陽は――閉ざされた」

じゃりっと地を踏む音が響く。

「この闇は、幕引きの合図だ――」



奴良、リクオ。

百鬼夜行の主となる男の闇の姿。

ああ。やっぱり。




「かっこいいな。ね、河童」

「?うん。そだね」

何となく河童に同意を求めてみれば何となく返された。

「さて。そろそろソレも緩んできたでしょ。ここにいると戦いの邪魔になるよ」

「あ。ほんとだ」

動けるようになった河童に手を振って、私は地を蹴った。




「ちょっと、河童!!今の奴なんなのよ!」

同じく水の縄から抜けだした毛娼妓が河童に問い詰めるが、河童は肩をすくめる。

「さぁ。オイラも知らね」

「はぁ?何よそれ」

河童の言葉に毛娼妓が怪訝な顔をするが、河童は首を傾げる。

「敵じゃないみたいだし、いんじゃん?」


その言葉にまだ毛娼妓は何か言いたげな顔をしていたが、諦めたようにため息をつく。

「まあ、そいつのことは後ね。今は…」

毛娼妓と河童は激しく戦うリクオと犬神を見つめたのだった。






「おお。激しくやってるなぁ。なんか、リクオ血ぃ流しちゃってるけど大丈夫なんだっけ…?」

私は眉をしかめて二人の戦いを見つめる。

正直、どっちが傷つくのも嫌だし、ただ見ているなんて耐えられない。

けども、犬神は知らなければ。

玉章よりも大きな“畏ろしい”存在を。


その時。

再び映像がスクリーンに映し出される。


『出たな!!妖怪!!』

「あ、清継だ!」

『そこのふとどきな大妖怪!!このボク…清継ふんする「陰陽の美剣士」が来たからには…悪事はもう許さんぞーー!!』

「え?変装?じゃあ…これって全部演出ぅ!?」


…。
本当に清継くんってすごいな。

実際に見て初めて分かる間の良さ。

これだけで生徒に全てを演出だと思わせてしまうんだから侮れない。


『見てろ!!今封じてやる!ボクのフルCG超必殺退魔術…よみおくりスノーダスト退MAXーー!!』

清継の言葉に合わせた雪女の氷の息吹。


「今です。若。犬の動きは止めました」

犬神の身体が氷と首無の糸に捕らえられる。

立ち昇る白煙の中から現れたリクオは刀を手に笑う。


「つらら…。この雪、ちょっとやりすぎだぜ」

「リク、オオオオォオ!!」

犬神の咆哮が断末魔のように体育館に響き渡った。






戦いの終わりを告げるかのように冷たい空気がひゅるりと体育館を吹き抜ける。


「若!ご無事で!」

「待て」

駆け寄る雪女達に、リクオは手のひらをむける。

リクオの、そして私の視線の先では人の姿をした犬神の姿。

血を流して、痛々しげな姿に私は眉をしかめる。


「へ…、やったな…?」


息も絶え絶えに犬神は笑う。


「オレは…オレはよぉー!“恨めば恨むほど…強くなる妖怪”なんぜよ…!ゴホッゴホッ」

咳に血が混じっている。

立ってはいるが、よほどの大怪我。

見て、られない。

もしかしたら、私の言葉で玉章の行動が変わって…、などと少し期待していたけど…

玉章を待ってはいられない。

今、助けなきゃ。


拳に力を込めたそのとき


「よ…夜雀ぇえ!?」

原作よりもだいぶ早いような展開。

ばさり、と漆黒の翼が広がった。


パリィン、と割られた照明。

明かりの全くなくなったその中に新しい“役者”が現れる。


「た…玉章…!?」


暗闇から現れた玉章はじっと犬神を見つめる。


「失敗したんだね。バカな犬神」


闇から聞こえるその声に私は唇をかみしめる。

冷徹な、感情が含まれない声。

心が透けて見えるみたいだ。

“仲間”を物としてしか見ることが出来ない、“仲間”を信用し、頼ることのできない哀れな大将。

その壁は私が簡単に取り払えるような物ではなかったんだ。



「オレはまだやれる!!なぁ、そうだろ!?」

縋るような声に、玉章は一瞬目を細めてから首を振る。

「いや。もう――終わりだ」

心なしか、その言葉はどこか自分に言い聞かせているような、そんな声。

「散れ…カス犬」


「“水壁”」


信じられない、と目を見開く犬神と玉章の間で、力の衝突が起こり、小さな爆発が起こる。

その粉塵に紛れて私は犬神を引っ張る。

「君は…」

私を見る玉章に、私は静かに言い放つ。

「この犬、いらないなら私がもらう」


吹き荒れる風に、羽織っていた着物がばさりと舞った。




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