とおあまりみっつ
ゴゴゴゴ…!
突如大きく膨らむ妖気と犬神の体。
「うおぉお!?こりゃ…なんじゃーー!」
犬神の体を押さえつけていた青田坊が宙に浮く。
「やっぱり、こうなったか…」
天井に佇んでいた影、水姫は呟いてばっと下へ降りる。
途中で犬神の体からずり落ちそうになっている青田坊を拾って。
「うおっ!?なんじゃ、お前!」
面を被った異様な者につまみあげられた青田坊は大きく声をあげるが、水姫は黙殺する。
すとん、と床に降り立った##name_1##は青田坊を放り投げて巨大化した犬神の体を見つめる。
首を探す犬神の前足がガンッ!と天井にぶつかり、壊れた瓦礫が落ちてくる。
「水網」
しかし、瓦礫は生徒の上に落ちることなく空中でとどまっていた。
よく目を凝らせば、薄い網がきらりと光ったのが見える。
天井に手を向けて呟いた水姫はそれを見届けてから舞台に目を向ける。
体育館には悲鳴が渦巻き、生徒たちは混乱を極めていた。
そんな中、犬神の体は首を掴んで自分の体にくっつける。
「く…首が戻った…」
「なんなんだ…こいつ…」
リクオの呟きに反応するように、犬神がぐるりとリクオの方を向く。
「まずい…!リクオ様を狙ってる!今…リクオ様は人の姿…、こんな巨体にやられたら…!」
それを阻止しようとした河童や毛倡妓達が吹き飛ばされる。
「ふぅ…」
ため息をついた水姫は今度は彼らの方へ手を向ける。
―ふわっ
壁に叩きつけられる直前に彼らの体が何かに支えられて減速した。
とん、と壁に背中が当たって床に落ちた河童は首を傾げる。
「なんだ?こいつは…水?」
自分の体にまとわりつく、糸のような物。
信じがたいが、それはまさしく水で。
それなのに頑丈な糸のように自分に巻きついていて動くことが出来ない。
「悪いね。衝撃が強かったから少し強い技を使わせてもらったんだ。しばらく動けないけど、そのうち緩むから勘弁ね」
気配もなしに、すぐ近くから聞こえてきた声に河童は目を見開いて振り返る。
そこに立っていたのは、白い面をつけて頭から着物を被った異様なもの。
「…君、誰?」
問えば、ちろりと視線がこちらに向いたのが面越しに分かった。
「まだ秘密」
「?」
くすくすという笑い声とともに言われた言葉の意味が分からずに首を傾げた河童を水姫は見下ろす。
「君たちの敵じゃあない。それだけじゃ、駄目かな?」
その言葉に河童はふうん、と頷いた。
「そっか。敵じゃないならいいや。それよりも…」
河童は犬神の方を見る。
「!リクオ様…!」
暗幕に隠れて見えないが、犬神に押し潰されているであろうリクオ。
焦ったように叫ぶ河童の頭を水姫はふわりと撫でる。
「大丈夫だよ。彼の力はこんなものじゃ、ないからね」
「?」
そして、彼女の言葉の通りリクオは姿を現した。
夜の主の姿となって。
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