やっつ


「突然、力を感じたから身を隠してみたら面白いものが釣れたようだね」

なるほど。
私の霊気を感じて、狸の幻術で姿をくらましていたのか。

自分の失態にちっ、と舌打ちする。


「君にはいろいろ聞きたい事があったんだけど…」

玉章が私を足で押さえつけながらくすりと笑う。

この野郎。女の子の腹を踏みやがって。
どんだけドSだこいつ。

「まずは、どうやってここへ来たのか聞かせてもらおうか」

「…え?」

玉章は、犬神が私を連れてきたのをしらない…?

どういうことだろう。

犬神の意図が分からずに言葉を発せずにいると、玉章はそのまま腰をかがめて薄く笑う。


「少し、早いんだ。僕が思ってたよりね」


彼の細い指が私の喉に伸ばされる。



「君は、何者だ?」



「…っ!」


ゆっくりと首にかけられた指に力を加えられて、私は顔をしかめる。
この野郎。私の首を絞めるとは度胸があるじゃない。

「奴良組の者じゃないだろ?君の情報は、もらっていない。しかし、君は僕たちのことを知りすぎている。…君は、誰だ?」


絞められた首がぎりり、と鳴る。

ああもう、犬神に殴られた腹も痛むし。

首は苦しいし。

こんなことで死にはしないけどさぁ


「調子、に、のんな!」

―パシン…!


高い音が静かな部屋に響きわたる。

あー、ひっぱたいてしまった。
さっきから理不尽なことが重なり、つい手を出してしまった。
やば。叩かれた玉章の頬が赤くなってしまっている。


「え、えと…ごめん、ね?」


いや、私は悪くないと思うんだけど、玉章が痛そうに肩を震わせていたから慌てて謝る。

暴力はいけないよね。うん。

と、思っていたのに


「…っく。くくく。ふふふふ」


玉章が、笑い始めた。
ああ。衝撃で頭が壊れたのかしら。


「面白い。水姫。僕の百鬼夜行に加わる気はないかい?」

「は?」


今の流れで何がどうなって玉章の中でそのような結論に至ったんだか全く分からない。

「君なら大歓迎だよ。そうだ。幹部の席も用意しよう」

「待って待って待って。どうしてそうなる。だいたい、私が何者かも知らないくせに」

そう言えば、玉章はくすっと笑う。

「聞くまでもないだろう?君からこんなにも力を感じるというのに。…なぁ、犬神」


丁度、その時、部屋の扉が開いて犬神が姿を現した。


「げぇっ。お前、何で玉章の部屋にいるんだよ」

しまった、と頭を掻く犬神を、体を起こした玉章が無表情に見る。

「犬神。お前が連れてきたのか」

そう問われると、犬神は気まずそうに視線をそらす。

「…玉章だって、そいつのこと気になってたじゃねェかよ。だから…」

「確かにそうだけどね。なんで、僕に隠してた?」

「そ、それはっ…!」


何か知らんが二人が揉め始めてしまった。
というか、やっぱり犬神は私のことを玉章に話していなかったのか。

しかし、これは好都合。
玉章の意識が犬神に向かっている隙に逃げさせてもらおう。
もはや雨が嫌だとか言っている場合じゃない。

今気付いたんだけど、一番怖いのは、黒馬と白馬に無断で外泊してしまったことなんだよ…!

これ以上帰るのが遅くなったら、多分黒馬と白馬は奴良組の妖怪片っ端から絞め上げ始めるだろう。

…もう手遅れかもしれんが。


ってことで。


「せっかくのお誘いだけど、玉章。百鬼夜行に加わる気はないよ。あなたは主の器じゃあない」

玉章の下からするりと抜け出してふわりと笑う。

「何を馬鹿なことを…」

ふっと鼻で笑って言った玉章の言葉を私は遮る。

「仲間を、物としか思っていない君は怖くない」

怪訝な顔をする玉章に手を振って私はふわりと浮かぶ。

くいっと指を動かせばカラカラと大きな窓が開く。

後ろを振り返って犬神を見れば、その手にはうどんとポンジュース。

ああ。本当に取りに行ってくれてたんだ。

少し申し訳ないことしたな。


私は、玉章に視線を移して静かに語りかける。

この言葉が少しでも彼の心に届いてくれたなら。

「また、すぐに逢うよ。その時までに、考えておいて。あなたについてきた人達の心を。あなたの本当の味方のことを、ね」




するりと消える間際に見えた犬神の顔が少し歪んでいるように見えたのだった。





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