むっつ
「良かった…。鳥居さん、助かった」
窓から覗いて確認して私はずるり、と壁に寄りかかりながら座りこむ。
(疲れたなぁ。…あーぁ。“神渡し”、しちゃった)
疲労でぼんやりする頭で母様の言葉を思い出す。
『神にはやってはいけないことなんてないんだよ。…でもね、神だからこそ絶対にやらないことっていうのがいくつかあるんだ。
“神渡し”がそのひとつ。神同士での力の移動はとても危険だ。どんなに凄い神だろうと、一歩間違えれば身の破滅を呼ぶ。普通の神ならこんなことはしないんだけど…あんたは優しいからね。気をつけな』
「あはは。母様には何でもお見通しだなぁ」
言われた時の心配そうな母様の顔を思い出して苦笑する。
神は、それぞれある一定の霊値を持っている。
少なくなりすぎたら消滅するし、多すぎたら自滅する。
さっきの“神渡し”で、もしその値を測り間違えれば、千羽様も私も、消えていた。
勢いでやってしまったけど、上手くいったのは本当に幸運だったのだ。
「でも、疲れすぎちゃったからなぁ。しばらく動けそうにないや」
そう呟いた時だった。
「それは好都合ぜよ」
「…っ!?」
突然の妖気に、私はばっと顔をあげる。
「犬…神…?」
森の陰からぬぅっと現れた人影。
「オレの名前も知ってるのかぁ?…お前、何者ぜよ」
「っ!」
逃げようとするが、体に力が入らず、僅かに足が土を掻いただけだった。
そんな私に、犬神が近づいてくる。
「見てたぜェ。お前、空飛んでたよなァ?なぁ、本当に何者ぜよ。お前も人間に紛れた妖怪かァ?」
「答える、義理は、ない…よ」
ぎりっと睨んでそう言ってやっただ、犬神は鼻でふんっと笑っただけだった。
「それならそれでいいぜよ。玉章もお前に興味持ってたからなァ。奴良組の妖怪なら人質にもなる」
近づく犬神の手をなんとか払いのけようとしたが、その腕もガッと掴まれる。
「無駄ぜよ。今ので疲れてるんだろ?次に目を覚ます時は…
俺達の手の中ぜよ」
「っが…」
腹にたたき込まれた拳の痛みを最後に、私は意識を失ったのだった。
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