いつつ



落ち着け、私。


このままでは鳥居さんは助からない。


私が、なんとかしなくちゃ。



そう決心して私は深呼吸する。


「千羽様」

静かに声をかけると、千羽様がばっとこっちを振り向いた。
手を合わせているおばあちゃんには私の声はどうやら聞こえてないようだ。

私は、まっすぐ千羽様の顔を見つめる。

「話を、聞いてください」

そう言えば千羽様は驚いたように声をあげる。

「小生のことが、見えるのですか?」

千羽様の問いに頷いて私は千羽様にゆっくりと近づく。


―ぎゅっ…



「!?な、なにを…?」


突然抱きしめられて慌てたように身じろぎする千羽様を更に力を入れて私は絞り出すように声を出した。

「どうか…鳥居さんを、助けてあげて下さい」


千羽様と触れあう体から熱が伝わるようにじっくりと、神気を移す。

「これは…」

先ほどとは比にならないほどの輝きが千羽様を覆う。

形だけだった千羽様の器に神気が満ちるのを感じて、私は満足して笑う。

「行ってください。もうすぐ夜があけます」

見上げた千羽様の顔には疑問と驚きが混じったような表情をしていたが、彼の問いに答えるつもりはない。


抱きしめていた千羽様から体を離して、とんっと背中を押す。

「行って、鳥居さんを助けてください」

にっこり笑った私に、千羽様は口元をひきしめて頷いた。

「かたじけない」


ばっと身を翻して鳥居さんの病室へ飛んでいった千羽様を見送って私はふうっと息をつく。

これで、大丈夫だろう。



「おばあちゃん。風邪をひきますよ」

とりあえず私はおばあちゃんを放っておくわけにもいかずに声をかける。

顔をあげたおばあちゃんは私を見てゆっくりと首を振る。

「私には、これしかできないから…」

そう言ったおばあちゃんに私は安心させるように笑う。

「千羽様が夏実ちゃんを助けてくれますよ」

驚いたように私を見るおばあちゃんを立たせて、私は病院の入口に向かう。

「千羽様を、知ってるのかい…?」

大人しく歩いてくれたおばあちゃんの問いに私は頷いた。

「とても優しい、神様ですよ。おばあちゃんが自分のことを忘れていなかったことがとても嬉しかったと。だから、絶対に夏実さんを助けるって」

病院に入ると、丁度鳥居さんの病室が光っているところだった。

「夏実さんのところに、行ってあげて下さい」

おばあちゃんの背中をぽんっと押した。







ぽんっと背中を押されて、部屋のドアに手をかけた。

しかし、あの子は一体誰なのだろう。

夏実の友達かしら。

尋ねようと振り向いたそこには、誰もいなかった。

外は雨だったはずなのに、歩いてきた跡もなく、ふと気づけば、濡れていたはずの体ももとから濡れてなどいなかったように乾いていた。

あまりに不思議なことだったが、病室から聞こえてきた声にはっとして、ひばりはとにかく病室の扉を開けたのだった。


「夏実!夏実!!」

夏実の友達が夏実のベッドの脇で涙を流している。

「信じられない。原因は分かりませんが、夏実さんはもう、大丈夫でしょう」

お医者様の言葉をぼんやりと聞きながら夏実を見る。

頬に赤みが差して、安心したように眠る夏実を見てようやく目から涙がこぼれた。

「…夏実」

おぼつかない足取りで、看護婦さんに助けてもらいながら夏実のそばに行って手を握った。

「夏実…」

そのとき、ふっと声が聞こえたような気がした。



―本当に、良かった。ひばり殿。




「千羽…様?」

ああ。そうか。

千羽様が助けてくれたんだ。

そう、確信した。

あの不思議な少女の言葉もすんなりと受け止められた。

千羽様は、通っていた私のことをずっと見ていて下さったのだ。

ああ。

「千羽様、ありがとうございます。ありがとうございます」


流れ出る涙はしばらく止まらず、朝まで夏実の病室で夏実の友達と泣き続けたのだった。





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