ふたつ



「リクオ君だよね?」


彼が―…玉章。




奴良くん達と合流した学校からの帰り道。

春奈は嬉しそうに笑いながら奴良君と話していた。
少し頬を染めながら楽しく話す春奈を、ああ。恋っていいなぁ。なんて、枯れきった思いで見ていた。

その後ろでは、カナちゃんと雪女が何やら牽制し合って、更にその後ろでは隠れているつもりなのか、首無達がこそこそとついてきていた。

そんな帰り道も、もう半分というところで彼らはやってきた。





「…!?だ…誰!?」

驚く奴良君達の様子に玉章はくすりと笑いを漏らす。

その様子を見ながらも、私も気づかれないように身構える。

「いや―…。聞く必要はなかったか。こんなに似ているのだから。“ボク”と“君”は―」

奴良くんの肩に手を置いて玉章は奴良君に宣戦布告をする。


「―ボクもこの町でシノギをするから」

囁かれた言葉に、奴良君は目を見開く。

「まぁ見てて…。ボクの方がたくさん“畏れ”を集めるから」

「ま…、待って…」

背中を向ける玉章を引きとめようとした奴良君の後ろ。

「両手に花か〜!?やっぱ大物は違うぜよ〜」

ぺろりと犬神がカナちゃんに向かって舌を伸ばす―…


「させないよ」


グイッ


「ぐぇっ!」

襟を後ろから引っ張られて、犬神は苦しそうな声を漏らす。

「な!何すんだ!!」

襟をつかんだ私の手を犬神がばっと振り払って噛みつくように怒鳴る。

大きな声に眉をひそめながら私は淡々と返す。

「それはこっちの台詞でしょうが。突然女の子の顔を舐めようとするなんて、なんて非常識」

「ふん。ちょっとした挨拶じゃ」

「へぇ。四国の田舎者は礼儀を知らないようね」

犬神の言葉にそう呆れたように返したとき。



「!!水姫!」

「高尾さん!」


驚いたような春奈達の声が聞こえたが、そちらを見ることはできなかった。

私は突然横から腕を引っ張られ、気付いた時には目の前に玉章の顔があったからだ。

すっかり油断していた。

てっきり、玉章はこちらに興味を示さずに立ち去ると思っていたのに。


私の肩は玉章に掴まれて“女子中学生”としての力では振りほどくことができない。

仕方なく、玉章を睨む。


「…何のつもり」

そう言った私を、玉章の冷たい目が射抜く。


「ボク達が、四国の者だって、何で知ってる?」

「…」


そ、そうか。あれは失言だった。

知っていたからついぽろっと口から出てしまった。

答えることができずに思わず言葉につまると、玉章が薄く笑う。

「まぁ、いいさ。君がたとえ何者であろうと、ボク達が勝つことに変わりはない」

そう言って、玉章は私の耳元で囁く。


「また君にはゆっくり話を聞くことにするよ」

「…ぜひ遠慮させてもらいたいね」


耳元での吐息に眉をしかめてそう言ってやると、玉章が不敵に笑った。

その後ろに、突然七つの影が舞い降りる。

それをちらりと横目で見て、玉章は私から離れる。

「着いたね…。七人同行。いや…八十八鬼夜行の幹部達」



「やれるよ…。ボクらはこの地を奪う。昇ってゆくのは…ボクらだよ」






「水姫!大丈夫!?」

残された私のもとに春奈が駆けよって来る。

心配そうに見上げてくる春奈の頭をくしゃくしゃと撫でて頷く。

「平気平気。それより、さっきの男の人達の後ろに変な物、見えなかった?」

正直、玉章にかなり接近されたことは不愉快極まりなかったけど、それよりも心配なことがあった。

少し遠まわしに春奈に聞いてみるが、春奈は不思議そうに首を傾げる。

カナちゃんの方も見てみたが、犬神に顔を舐められるというアクシデントが起こらなかったからカナちゃんも見ていないようだ。

私はほっと胸をなでおろす。


―七人同行。

行き合ってしまうと、死んでしまうといわれる本当は怖い怨霊だ。

まぁ、原作を見ている限り、七人同行は怨霊をいうより、妖怪として描かれているから大丈夫だとは思うが、見ないに越したことはない。


しかし、彼らが来たということは、いよいよ始まる。


百鬼夜行の衝突。






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