ひとつ
「水姫!ごめん!今日先生に呼ばれてるんだ!ちょっと時間がかかりそうなんだけど…」
黒羽丸との悪霊退治から数日後の放課後、春奈が申し訳なさそうにそう言ってきた。
「そっか。じゃあ、屋上で待ってるよ」
にこっと笑ってそう言えば、一気に春奈の顔が明るくなる。
「ほんと!?ありがとう!出来るだけ早く終わらせられるように頑張るね!」
そう言ってパタパタと駆けていく姿を見送ってから私も鞄を持って、教室を出る。
さて。今日は天気も良いし、本でも読みながら待ってるか。
しかし、屋上に通じるドアを開けたところで私はその選択を後悔した。
なんで
「なんで、この人達がいるんだ…」
視線の先、屋上のフェンス近くに佇む数人の人影。
まぁ、見間違いじゃなければ恐らく…
河童と毛倡妓と、首無…さんですよね。
首無とは面を被ってるときに一度会ってるわけだし、ここは関わらないようにした方が得策だな。うん。
というわけで、素早く方向転換しようとしたとき
「あれ。若の友人だ」
河童の一声で残りの二人もこっちをばっと見る。
何で気づくのかな。
あなたたちにとっても私とは関わらないほうが賢明でしょうが。
河童はいいとして後の二人は明らか学校の関係者じゃない格好してるんだから。
なんて心で思いながら、引き攣った笑顔を浮かべて軽く会釈をする。
すると、あちらさんも軽く頭を下げてから何やらひそひそと相談しはじめた。
「どうすんのよ。生徒に見つかったらやばいんじゃないの?」
「い、いや、怪しい人だと思われなきゃ大丈夫さ」
「でも、あの子だいぶひいてるみたいだよ?オイラと違って二人の格好は学校じゃ浮いてるからね〜」
「は、話せばきっとわかってくれるさ!」
「そうかしら…」
なんてごにょごにょ話していたが、正直会話は筒抜けだ。
だから、首無がこちらに歩み寄ってきたときは思わずため息をついてしまった。
「やぁ。えっと…リクオ様のお友達だよね?」
「え、ええまあ…」
半笑いで頷くと、首無が私の手を握って爽やかな笑顔を浮かべる。
「ちょっとこっちで話さないかな?」
疑問形のくせして、この人絶対この手放す気ないしね。
私は再度ため息をついてから頷いたのだった。
「へぇ。あんた街外れのあの神社に住んでるの?あそこ、すごく小さかったような気がするけどよく住めたわね」
「ははは。まぁ、住めば都なもんで」
結局、河童と毛倡妓と首無に囲まれて団欒することとなったのだが…
正直、首無の視線が痛い。
最初はそんなことはなかったのだが、さっきから食い入るようにこっちを見ては首を傾げている。
まぁ、明らかにあの時のことを思い出しているのは確実なんだろうな。
いくら面と衣で顔を隠していたって、首無と会ったときは至近距離だったわけだし。
声とかも、聞き覚えがあったのかもしれない。
そんなことをいろいろ考えていたが、ついに首無がためらいながらも口を開いた。
「水姫さん、は、その…。前に…」
その時だった。
バサバサッと大きな音がして皆一斉に上を見上げる。
「総大将ぉ〜〜〜!!どこですかぁ〜〜〜!!」
鴉天狗が泣き叫びながらフルスピードで空を飛んでいった。
…ぬらりひょんが、行方不明…?
ああ。そうか。
これは、四国八十八鬼夜行の襲来。
「…」
「…」
まぁ、当然ながら私達の間では変な沈黙が落ちる。
「…はは、大きな声の、鴉…でしたね」
とりあえず、そう言いつくろって私は立ち上がる。
妖怪を見て普通にしてちゃ怪しまれるもんね。
丁度いい具合に首無の意識も逸れたみたいだし。
今のうちに退散させてもらおう。
「それじゃ、楽しかったです。また逢いましょう」
そう言い残して、私は屋上を後にしたのだった。
「あ、水姫!」
ドアを閉めれば、ちょうど春奈が階段を昇って来るところだった。
「ああ。春奈」
春奈を見て、手を振ったが、次の嬉しそうな春奈の言葉に思わず体が固まった。
「あのね!今、奴良くん達と会って、丁度今帰るところだから一緒に帰ろうかってことになったの!早く行こっ!」
「え?」
奴良くん達と一緒に…?
この下校中確か、玉章と犬神と接触するんじゃなかったか。
まぁ、危険はないとは思うけど…。
うーん。犬神には気をつけることにしようか。
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