みっつ
「さて。何から聞きたい?」
黒羽丸の隣に座って頬杖をつきながら聞くと、黒羽丸は一瞬詰まった後に口を開く。
「さっきの力は何だ?それに、奴が降りてきた時に気付かれなかったのもお前の力なのか?妖怪ならば何処の者だ?」
「あーもー。それ、一気に聞きすぎでしょ。逃げないって言ってんだからもうちょっと気を長く持って下さいよ」
呆れたように言えば、すまない、と素直に謝る黒羽丸。
「いや、まぁいいよ。傷を治したのも、あいつに気づかれないようにしたのも全部私の力。でも、妖怪じゃあない」
「まさか…!こんなことを人の子ができるはずがない!」
声を荒げる黒羽丸に私はため息をつく。
「全く。誰もかれもこの世には人と妖怪しかいないとでも思ってんのかしら」
まぁ、力の弱い土地神でもない限りあまり神は人里には降りてこないし、しょうがないって言えばそうなんだけど。
「私は水姫。貴船の娘」
「き…ぶね?」
ぽかんとする黒羽丸の顔なんて非常に珍しいものかもしれない。
内心、笑いをこらえながら頷く。
「京の貴船の龍神のことは知っているでしょう?私はその娘。まだ幼いけどね」
肩をすくめてみせると、黒羽丸は目を見開く。
「まさか…!貴船の龍神ほどの神が、なぜ…」
「ああ。あんまそんなことに悩まなくてもいいよ。君達のシマを荒らしに来たわけじゃないから。ここに来たのはのはただの社会勉強だからね」
緊張感をみなぎらせる黒羽丸に言うが、相変わらず黒羽丸の表情はかたい。
「失礼しました。まさか名のある神だとは知らず…」
突然、口調を改めて頭を下げるから私は苦笑する。
「あのさ、私自身は別にそんなにたいしたことないんだからそんなに畏まらないで。あまり、私の正体も知られたくないし特別な態度はとってほしくないの」
「ですが…」
少し困惑したように黒羽丸は言うが私は言い募る。
「あなた達の縄張りであまり混乱は起こしたくないでしょ?私も騒ぎにしたくないし。お願い」
言えば、黒羽丸は少し眉をしかめたあとにため息をついた。
「…分かった。このことは内密にしておこう」
「ありがとう!黒羽丸!」
嬉しくて思わず笑顔で黒羽丸の手を握ったが、その言葉に黒羽丸は首を傾げる。
「なんで、名前を知っている…?」
言われてはっとする。
そうだ。まだ黒羽丸は名前を名乗っていないんだった。
「えー…と、神の先見の力…って奴?」
口からのでまかせだったが妙に納得したように黒羽丸はそうか、と頷く。
マジか、こいつ。
まぁ、ごまかせたなら何でもいいか。
「…で、私からの質問だけど、さっき黒羽丸が襲われてたのって以津真天だよね?あんな妖怪がなんでこの町に?」
そう問うと、黒羽丸は顔をしかめる。
「俺もまだよく分かっていない。勿論奴良組の妖怪じゃないから取り締まろうとしたんだが、話が通じず…」
「あぁ。以津真天は怨霊の塊だから祟る以外能がないのよね。無駄に力だけは強いみたいだし、苦労しそうだね」
私はちらりと黒羽丸を見遣る。
「って言ってもあれの相手は手負いの黒羽丸にはキツすぎるか…」
しかし、責任感の強い黒羽丸のことだ。
傷をおしてでもきっと以津真天を追い払いに行くだろう。
私はため息をついて頭をがしがしと掻く。
「仕方ない。私も浮世絵町の住人なわけだし、手伝うよ。無理して黒羽丸が死んじゃったりしたら後味悪いもんね」
そう笑って言えば、黒羽丸は憮然とする。
「そんなに弱くはない。…しかし、正直手を貸してもらえると助かる」
その言葉に私は苦笑する。
「黒羽丸が強いのは知ってるよ。じゃあ、いっちょ共同戦線で悪霊退治と行きますか」
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