むっつ


「牛鬼組は人をあやつり
 惑わしひきよせ
 殺す『怖』の代紋。

人間ふぜいに負けるはずが…ねーんだ…よぉー!!」


あぁ。だめだよ、牛頭。

相手はぬらりひょんの孫。人間ふぜいじゃないことくらい分かってるでしょう?


牛頭の背中から飛び出た爪と奴良くんの刀が拮抗する。

ギリギリと刀を圧す牛頭がにやりと笑む。

「それで止めてるつもりかぁ!!!」

牛頭の背中からさらに飛び出る無数の爪。

「これで最後だよ!!」


あぁ、あぁ。

私はため息をつきながらも一部始終を見守る。

妖怪に変化した奴良くんに切られ、なぜ…と呟きながら倒れる牛頭。

「血なら流れてる。悪の…総大将の血がな……」


自分と向き合い、そして妖怪であることを認めた。

奴良くんはこれから牛鬼のもとへ向かうのだろう。

そして…。







私は奴良くんと雪女がいなくなったのを見計らって木陰から出て、牛頭の傍らに立つ。

「…ぐぅっ…、牛鬼…様…」

血を流し伏しながらも発する言葉は牛鬼のこと。

全く。

「忠告…したでしょう」

傷ついて欲しくなかったのに。

皆にも牛頭や馬頭…牛鬼にも。

「…てめえは…!」

伏したまま顔もあげられない牛頭は声だけで反応した。
生憎、今は衣面を持っていなかったから牛頭が顔を上げることができないのは好都合だった。

「傷つくのは見たくない。これからも。もっと自分を大切にして欲しいもんだ」

ため息をついて私は膝をつく。
そして血が流れ出る傷に手をかざす。

「清く流れる水よ。全ての穢れを清めこの者に癒しを」

唄うように言葉を紡げば牛頭の傷が水に覆われ、血が止まる。

治癒を施す時は力を使うのではなく、水にお願いするのだ。

「これでじきに動けるようになる。心配なら牛鬼のもとへ向かえば良い」

「てめぇ、一体何者だ…!?」

牛頭は起き上がろうとするが、その瞬間痛みでまた地面に伏す。

「無理はしない方がいい。早く牛鬼のもとへ向かいたいなら尚更な。さようなら」

顔を見られないうちに、とくるりと踵を返したが、その足をガシッと掴まれる。

「ま…て…。答えろ…、てめえは一体…!」

ぶんぶんと足を振ってみるが牛頭は手を放してくれない。

この野郎。
傷を負ってるくせに随分と力あるじゃねぇか。

「全く。これだけ力が余ってるんだったら手当は余計だったかな」

ふぅ、とため息をついて鋭い霊気を牛頭に向ける。

「…!?ぁぐっ!」

向けられた霊気にあてられた牛頭は体を震わせる。

力が抜けたその隙にするりと足を牛頭の手から抜く。

「いずれまた逢うよ。その時に気が向けば答えてあげよう」

そう言い残して私は牛頭のもとを去った。







「あーぁ。そうだよなぁ。普通気付くよなぁ。なんで戻ってきちゃったんだろう」

自分に呆れながら目の前の建物を見つめる。

そこは最初の出発点である清継くんの別荘だった。

牛頭のところで思いのほか時間をくってしまったので、慌ててまた気配を探してやってきたのだが、いささか慌てすぎたみたいで元の道を戻っていたことに気付かなかったみたいだ。

その上、馬頭の襲撃があったであろう浴場からは馬頭の悲鳴と鞭の音が聞こえる。

恐らく、鴉天狗がゆらちゃん達を助けた後なんだろうな。

っていうか、鴉天狗達、そろそろ奴良くんのもとへ向かわないと牛鬼のシーンに間に合わないんじゃない?


全く。自分で言うのもなんだけど、私はどうやらだいぶお節介だったみたいだ。





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