ふたつ


「ふわぁあい!やっとついたねぇ、水姫!」

電車から降りて大きく伸びをする春奈の服を、私は苦笑しながら押さえる。

「あんた、短いTシャツ着てんだから、そんなに伸びるとへそ見えるよ」

「へへ!狙ってたりして!」

無駄に可愛いウインクをする春奈の頭をとりあえずぺしんと叩いておいた。



「さぁ、皆!さっそく向かうぞ!」

清継くんの言葉で一斉にぞろぞろと山道へ向かう一向。

「うはぁ!なんだか断然楽しくなってきたぞぉ!」

うおぉ!と両手を上げて叫ぶ春奈の襟をつかんで、私は春奈を引きずりながら一行の後を追ったのだった。






「なんだよ〜〜〜。ず〜〜〜っと山じゃんか!!」

山道を延々と登り続けて早一時間。

疲れたぁ、と文句を言う面々に清継くんは修行だ!と清々しいほどに言い切っている。

「春奈、大丈夫?」

さすがに春奈もへばってきたのか、息を切らしている。

「大丈夫ーぅ…。まだ…こんなところで…終わるわけには…」

あぁ。無理そうだ。

私は判断して、春奈の荷物をひょいっと奪い取る。

「あぁ!なにすんの!水姫!」

突然のことに抗議の声を上げた春奈の頭を私はぽんぽんと撫でる。

「大丈夫じゃないでしょ。全く見栄張っちゃって。荷物持たれるか、自分がおぶられるかどっちか選びなさい」

そう言うと、春奈はうぅ〜っとうめきながら渋々荷物を諦めて預けることにしたみたいだった。

そんな春奈の頭をよしよし、と撫でていたら、突然前の方が騒がしくなったので、私たちも急いで合流する。

「何かあったの?」

春奈が皆に聞くと、清継くんが道から外れた山の方を指して首をかしげる。

「いやね、ゆらくんが何やら祠を見つけたみたいなんだが、字が読めなくてね」

「ちょっと見てきます」

うーん、と唸る清継くんを置いてゆらちゃんが山道に入っていく。

「私も行ってみるわ」

特に意味はないが、ちょっと興味が沸いたので春奈にそう言って私もゆらちゃんのあとに続く。

「『梅若丸』って書いてあるよ!!」

奴良くんの声が後ろからしたけど、とりあえず祠まで行ってみる。

…と、その脇に小さな石の家がぽつんと置かれていた。

「これは…」

微かな神気を感じて、ゆらちゃんからもちょっと離れてそこに向かう。

小さな石の家の前に座って、よく見てみると、そこから喉元だけ白い小さな黒い蛇がぬっと顔を出したのでつい感心してしまう。

「この山にも道通様がいらしたんですね」

小声で話しかけると、蛇がちょこんと首を傾けてからシューっと舌を出した。

「そう。もう何百年も…。昔からあまり人が入らない山だと聞いていたので驚きました」

頭の中に直接響く声に相槌をうって、私は春奈の鞄を漁る。

「こんなものしかありませんが、どうか一緒にいるあの子達を守ってやって下さいね」

そう言って、白いまんじゅうを家に数個供えると、蛇―道通様は嬉しそうに舌をちろちろとだした。

「あはは。喜んでもらって良かったです。…?あぁ、私は貴船の娘ですよ。いやいや、私なんかまだまだ未熟ですのでお気になさらず」

貴船の娘と聞いて慌てる道通様に苦笑してると、後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた。


「水姫くん!何をやっているんだい!?もう先生が来てるよ!さぁ行くぞ!」

清継くんの声に私は立ち上がる。

「さて、それでは失礼しますね。何かあったら守護の方、よろしくお願いします」

最後、ぺこっと頭を下げてから私は祠を後にしたのだった。





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