やっつ


「と、とりあえず落ち着こうか、春奈…」

まさか私の春奈が清継くんにとられるなんて思いもしなかった出来事に眩暈を覚えながらも興奮する春奈を宥める。

「えーっと…清継くん達に誘われて奴良くん家に行ったら、今度は捩眼山の合宿に誘われたわけなのね?」


眉間に手を当てながら聞き返すと、恥ずかしそうに俯いて頷く春奈。

か、可愛い…!

じゃなくて!

「はぁ…。それで春奈一人だと不安だから私にも一緒に来てほしい…ってわけね」

「だって、水姫、なんでも一つお願い聞いてくれるって言ったじゃん」

うわわわぁ!
そんな潤んだ瞳で見ないで…!

恋する女の子は綺麗になるって言うけど、春奈のこれは半端じゃない。

「…で。好きなの?」

もうこうなったらはっきりさせてしまおうと思ってすっぱり聞いたら、春奈はまたギャーッとか叫んで座布団にうずくまってしまった。

これは確定的だな。

っていうか、私んち来たのって奴良くんち行った後だったのね。

ちょっと悲しくなったことは秘密にしておこう。

恋は盲目だっていうしね。
友情より愛情…か。

ちょっと遠い目をしてそんなことを考えてると、春奈がぽつりと呟く。

「…でも、私なんか相手にされないよね。もっと可愛い子がいつもそばにいるし…」

ん?

それは鳥居さんとか巻ちゃんとかのことかしら。

「私的には春奈の方がずっと可愛いと思うけどなぁ」

いや、鳥居さんも巻ちゃんも可愛いけどね!
もうなんか女の子皆可愛いけどね!

でも、私には春奈が一番可愛く思えるよ!

「そんなことないよ!家長さんなんて、なんであんなに可愛いのってぐらい可愛いし!及川さんなんて学校一番の可愛さだよ!」

あぁ、カナちゃんと雪女も入っちゃうのかぁ。

「でも、大丈夫じゃない?あの二人は清十字団の団員として付き合ってるだけだと思うし…」

あの二人は奴良くんのこと好きっぽい感じだしなぁ。
清継くん狙いじゃないのは確かなんだけど。

「そんなことないって!だって幼馴染だし…よく一緒に登下校してるし…」

ん?
あぁ。まぁ、カナちゃんとは確かに幼馴染だな。

でも登下校一緒の時って清十字団で何か相談するときだけじゃないかなぁ。

なんかいろいろ誤解してるんだろうなぁ。

「でも、ねぇ…。清継くんのどこにそんなに惹かれるのかねぇ」

ぽつりと漏らした瞬間、しまった、と思わず口を押さえた。
恋してる女の子にこんなこと言うなんて…!

案の定、春奈は目を大きく見開いて私を声なく見つめている。

「あ、あの…ごめん、春奈。こんなこと言っちゃって!春奈には春奈の気持ちがあるのに…「へ?」…は?」

私の言葉を途中で遮るように出された声に私は首をかしげる。
春奈は心底不思議そうに私を見つめている。

「水姫?なんで清継くんがでてくるの…?」


は?

「え?だって春奈、清継くんのことが好きなんじゃ…」

そう言うと、しばらくぽかんとしてた春奈は堪えきれなくなったようにお腹を抱えて笑い出した。

「あは、あはははは!あはは!やぁだ水姫!なんでそうなるの!?」

「はぁ?だって清継くんに誘われたことで興奮してたんじゃんないの!?」

「あは、やだ!やめてよ!違うったら!」

「じゃ、じゃあ誰が好きなの…?」

驚きながらも尋ねると、突然春奈は静かになって俯く。



「 … くん」


「え?」

ぽつりとこぼれた言葉を聞き取れず聞き返す。

「だ、だからね!…ぬ、奴良くん…!」


今度こそ私は本気で呆気にとられた。

手に持っていた湯のみを落っことして。




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