むっつ


「は、ごろも、きつね…ですか?」

思わず鸚鵡返しに呟いた言葉に川熊様は頷いて見せる。

「ここ400年の間、聞かなかった京の古来よりの妖にございます」

「知って…います。母様よりお話は聞いておりました」

なぜ、今羽衣狐の話が…。
いや、原作だと随分先のように思えたが、実際京ではもう動きがあったのか。

「そうでしたか。ならば話は早いですな。その羽衣狐が400年ぶりに何やら動きを見せております」

やっぱり…。

「その、羽衣狐のことでわざわざ熊野大神様が私に何を…?」

原作では神様のことなど何も描かれていなかった。
あれはあくまで妖怪同士の争い。
神である熊野大神様は原作に介入しようとしているのか…?
だとしたら、それは自分という存在のせいな気がする。

恐る恐る私は川熊様の返事を待つ。

「そうですな…。単刀直入に言えば、羽衣狐の企みは我らにも直接的ではないにしろ影響が及びます。奴の狙うは闇の世界。正直、清浄なる空気を保たねばならない主様などの神にとって厄介であることは必至」

確かに、世界は清浄なるものと不浄なるものに分けられる。
闇に潜む妖は不浄。
神と妖は基本的に相容れぬ。

「だからと言って、神が妖の世界に直接介入するのは世のバランスが崩れかねませぬ」

人と妖と神。

それぞれがお互いに影響しあってつくられているこの世界。
しかし、神だけは常に傍観と中立。

それがこの世界の基本であると昔聞かされた。

「では、なにを…」

「水姫様の協力をお願いしに参りました」

言われた言葉に息を呑む。

「私の協力…?しかし…」

「水姫様も立派な神でございますことは百も承知です。問題は直接神が関わっていると世に知られなければ良いというのが我の主の考えでございます」

「それは…」

「水姫様が他意なく、人里に降りられていることは他の神も既に承知。妖に至ってはそれも知らないはず。そして偶然か必然か水姫様の通われている学校には、400年前羽衣狐を倒した妖怪の総大将ぬらりひょんの孫がおられます」

いや、他意ありまくりだけどね。
全然偶然じゃないけどね。

私は沈黙で、川熊様に話の続きを促す。

「熊野大神様によると、ぬらりひょんは羽衣狐と深い因縁があります。いずれ必ず再び羽衣狐の前に立ちふさがる存在となりましょう」

「…私に、陰ながら彼を助け、羽衣狐を討て、と。そうすれば神の介入ではなく妖同士の争いという面目がたつ…ということでしょうか」

言った私を見て、川熊様は頭を下げる。

「無礼は謝ります。しかし、大いなる存在である熊野大神様は直接動かれることができません。水姫様にすべてを託す、と我が主は仰っております」

なるほど。
まだ生まれて間もない“水姫”ならば、もし介入がバレても幼いが故の行為として神側としては知らぬ存ぜぬを貫き通せる。
ちょうど使い勝手の良い駒ってわけね。

私はため息をこぼしてから川熊様に声をかける。

「川熊様、頭を上げてください。確かに、都合の良い話ですが、羽衣狐の企みが母にも影響があるのならば私も黙っているわけには参りません。そのお話、前向きに考えさせてもらいます」

もともとリクオ達の力になりたくて学校に入ったわけだしね。

「…!ありがとうございます。何か力になれることがありましたら水を通じて私に伝えてください。熊野大神様は全面的に協力するとのことです。もちろん陰ながら、ではありますが」

「お心遣いありがとうございます。まずは、彼が羽衣狐と戦えるような戦力になれるかどうか見極め、時に助言をしながら見守っていこうと思います。今のところはそれで良いでしょう」

「十分でございます。それでは、またの邂逅を楽しみにしております」

川熊様はそう言うと、一礼してあっという間に空へと駆け上って行ってしまった。




「水姫様」

後ろから声をかけられ、私は川熊様が翔けていった空から視線を外して白馬を見る。

「大丈夫よ。私のやりたいことと矛盾はしてないもの。納得した上での結論だから」

そう笑顔で言うが、白馬は困ったように首を傾けた。

「そうではないのです。…実は、我が家に水姫様のご学友がいらしてまして…」





……え?

「待って待って。それってちょっと…まずくない?」

ご学友って…春奈しか思い浮かばないんだけどぉ!?

え?うちって一見ぼろ神社だけど、鳥居くぐったら異世界だよ?

どうしよう…。

説明…めんどくさ…。





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