ここのつ


「そ、それより、リクオ…!獏と凌雲さんがどこに行ったか知らない?」

恥ずかしさも相まって話題をそらすように慌てて聞けば、リクオはくくっと喉をならす。

「相変わらず、水姫はつれねぇなあ。まぁ、いい。自分の神使のことだからあんたも話を聞くべきだろう。凌雲に貸してやってる部屋に案内する。…ところで、もう一匹の神使はどうしたんだい?」

リクオに問われて初めて気付く。

「そういえば、白尾さんは…。一応報せは飛ばしておいたんだけど、気まぐれだから来てないのかも」

白尾さんは私がピンチのときこそ駆けつけてくれるものの、獏のことでは出てこないつもりなのかもしれない。

そう肩をすくめた私にリクオはひょいっと片眉をあげる。

「ふうん。あんたも大変みてえだな」

「お互い様でしょ」

そう言って、苦笑しながらリクオに案内された部屋の前まで来た時だった。


「やめろ!お前、ほんとにふざけるな!」

獏の怒鳴り声にびっくりして、慌てて私は襖を開ける。

「獏!だいじょ…うぶ?」

そこには、必死で飛びかかるのを抑えている獏と、その前で猫じゃらしを器用にちらつかせる凌雲さん。

「なに…してんの?」

私の呟きは二人には聞こえてないみたいだ。

「ふふふ。幼雲は相変わらず私の猫じゃらしには弱いねぇ」

「くそっ…!兄貴の猫じゃらしにだけはどうしても反応してしまう…!」

耳をぴくぴくさせて身をかがめている獏の姿はどう見ても滑稽だ。

「伊達にお前を赤ん坊のころからあやしてた訳ではないからね。刷り込みってやつさ。この動きにいつまで耐えられるかな?」


…仲、よさそう。

さっきまでとても険悪な雰囲気だったからてっきり兄弟の仲が悪いのかと思っていたけど…。

まぁ、獏は本気で怒っているんだけど、少なくとも凌雲さんはすごくたのしそうだし、傍から見ればじゃれているようにしか見えない。


私は溜息をついて、座っている凌雲さんを見る。

「あの、凌雲さん…?ちょっといいですか?」

聞けば、にっこりと笑いながら私を見上げる凌雲さん。

「さっきの話…獏を、連れ戻しに来たって…。どういうことですか?」

「そうだね。どう言うべきか。とりあえず、夜護ちゃん。獏から神使の位を剥奪してくれないかい?」

相変わらず、獏で遊びながら凌雲さんがさらりという。
それに私は眉をひそめて返す。

「ですから、どういう経緯なのか知らないでそんなことをするつもりはありません。そもそも、神使の位の剥奪なんてやったことありませんし…」

「やってもらわなきゃ、儂がやるよ。自分の主以外にやられると相当な苦痛を伴うのだけどね」

ますます眉間にしわがよる。

「獏が苦しむことを許すわけにはいきません。ですから、事情を聞かせてください!それから、獏本人の意思もです!」

少し大きな声で言えば、ようやく凌雲さんは猫じゃらしから手を離して溜息をつく。

「ふむ。まさか幼雲が神使になっていたとはな。そうでなければ無理矢理連れて帰れたのだが…」

そう言って、ようやく猫じゃらしから解放された獏に凌雲さんが尋ねる。

「…饕餮のことを話すよ。そうじゃないと、この小さな神様は納得して下さらなさそうだからね」

その言葉に、さっきまでぴくぴくと動かしていた耳を伏せて、獏は小さく頷いたのだった。




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