ひとつ
「姫様ー!お帰りなさい!」
「姫様っ!我らきちんと家守できました!」
「姫様ぁ!ぎゃ!誰ですか!」
それぞれの反応を見せる木霊達に出迎えられて、ようやく帰ってきました浮世絵町!
ちなみに木霊達は見たことのない白尾さんを警戒しているようです。
そんな彼らに新しい白尾さんが新しい住人になることを紹介して、とりあえず家にはい…ろうとしたら
「水姫…」
少し戸惑ったような声が聞こえて、私は振り向く。
「わぁ、黒羽丸!なんか久しぶり」
いつからいたのだろうか。
私達はついさっき神渡りで一気に帰って来たばかりだから鴉たちの情報網で知ったわけではないと思う。
とすると…。
「まさか、私達が帰ってくるのを確認できるまで毎日ここに足を運んでたの?」
聞くと、黒羽丸は具合が悪そうに眉をしかめた。
「…水姫が帰ってこないと、家が留守になったままだと思って…」
その言葉に反応したのは、なんと木霊達だった。
「そうですよう、姫様!」
「黒羽丸様が姫様の留守中、神気にひかれてやってきた妖どもを退けてくれたのです!」
「もちろん、我らも頑張りました!」
そう言って、胸をはる木霊達の頭をよしよしと撫でてから私は苦笑して黒羽丸を見る。
「そうだったんだ。ありがとうね、本当に。…あ、もしかしてリクオの命令?変なとこで過保護なところあるからなぁ、リクオって。つき合わせてごめんね?」
「ち、違う!」
「え…?」
私の言葉に、突然声を大きくした黒羽丸に驚いて目を見開けば、黒羽丸はしまった、と顔をしかめた。
それを見ていた白尾さんは何を思ったのか
「にょほほ。取り込み中悪いが水姫。私達は先に家に上がらせてもらうぞ」
と、獏を連れて鳥居の向こうに消えていってしまった。
「お、おい!なんで俺まで行かなきゃならないんだ!」
「私はこの家は初めてなのだぞ?家の中を案内せい。それから野暮なことはするものではないだろう、阿呆が」
そんな会話が遠くで繰り広げられている中、私は首をかしげて黒羽丸を見ていた。
黒羽丸が声を荒げるところなんて滅多に見たことがなかった。
「…もしかして、リクオのこと悪く言ったから怒ってる?ごめんね?」
それしか心当たりが思いつかずに聞けば、黒羽丸はどことなく辛そうな顔をしながら力なく首を振った。
「いや、違うんだ。俺の方こそ、取り乱してすまなかった」
その言葉に、私はますます首を傾げる。
「どうしたの?黒羽丸。…何かあった?」
いつもの黒羽丸の様子ではない。
といっても、京都ではほとんど言葉も交わすことがなかったからいつからこんな状態だったのかは分からないけど…。
とにかく、元気を出してほしかった。
こんなに何かを耐えているように辛そうな黒羽丸を…見ていられなかった。
「ねぇ、黒羽丸。…あそこの公園、行こっか」
黒羽丸と初めて知り合った場所。
何となく。本当になんとなく、だけれど。
そこに行くべきなんだと思った。
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