とあまりやっつ
「それは、一体どういう…」
河伯に聞き返そうとしたら、河伯はゆっくり首を振る。
「私めにもそれ以上は分かりませぬ。それに、答えを見つけられるのは水姫様だけなのですぞ」
それだけ言って、河伯はするりと水に溶けてしまった。
「…月のない夜に、月を探せ…」
月のない夜…これは朔夜のこと。
朔夜に、月を探す…?出ていない月をどうやって…?
月…
そこで私はふとずいぶん昔の母様との会話を思い出す。
「月の雫?」
「ああ。月の光を浴びて輝く露は、地上に降ってきた幾つもの月の欠片みたいだろう?だから、“月の雫”だ」
母様が掬い取った露を、綺麗な言葉があるもんだなぁ、と感心して見ていた記憶がよぎる。
「月の雫…?でも、いや…」
確かに、露にはそんな呼び方があるということを母様から聞いた。
しかし、それが龍穴とどんな関係が?
けども、もう時間もない。
私は近くにあった濡れた葉に滴る雫を手の上に落とした。
すると、不思議なことにその雫は手に沁みこむことなく丸い形を維持したまま銀色の光を放ち始めた。
それだけではない。
その雫は私の手のひらからわずかに浮かび上がって、勝手にふよふよと動き出してしまった。
慌ててそのあとを追いかけた私を待ち受けていたのは、貴船に十年以上住んでいたのに訪れた記憶のない美しい場所だった。
木々の拓けた場所に小さな池が清浄な水をたたえていて、その周りに雪のように白い月見草が咲き乱れていた。
やがて、浮かんでいた雫は突然力を失ったかのようにぽちゃん、と少し水面に波紋をつくって池に落ちた。
そして
「月…?」
池を覗き込んだ私が見たのは、池に映りこんでいる満月。
もちろん空を見上げても月は出ていない。
「こ、こが…龍穴?」
ぼんやりと呟いたときだった。
「よく見つけられたな、水姫。流石我の子よ」
快活な暖かい声が聞こえた。
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