よっつ



首無と青田坊によって檻は壊され、ゆちゃんとカナちゃんが救出される。

まぁ、それでいいんだけどさ。

「首無。あんたの大将に伝えておいてね。もうちょっと早く出てきなさいって」

私は、気配なく首無の耳元で囁くと、彼が反応する前に羽織をはためかせて宙を翔けたのだった。





「…?首無、どうした?」

突然動かなくなった首無に青田坊が不思議そうに声をかける。

「青田坊。今の見たか?」

首無が面を被った者のことを聞くが、青田坊は知らないと首を振る。


(あれは誰だ…?妖気どころか気配さえなかった…。ただの人間が空を飛ぶわけもない…。それにあの言葉…)

とにかく、この出入りが終わったらリクオ様に報告しておくか…。









「…ふん。相変わらずぬるい。破門された妖怪を使うのはよかったがのう。死んで足がつかずんですんだ。なぁ?牛鬼」

朝日が差し始めたビルの上。
数人の人影が燃える旧鼠の様子を見ていたが、やがてそれぞれが散らばり残るは一人となった。




「リクオを試すのはいいが、周りを巻き込むのは感心しないな、牛鬼」

突然、背後から聞こえた声に牛鬼はばっと振り向く。

「貴様、何者…」

「牛鬼。私は奴良組の味方。しかし私にとって大切な者が傷つくのは見たくない。心しておくと良い」

表情の窺えない面に頭から羽織った羽織。

異様な雰囲気を醸し出すその存在に牛鬼は反応できないでいた。

「では、また会うだろう」

そう言って一瞬でその者が消えた後もしばらく動けなかった。

気配は感じられず、妖気もない。
だが、圧倒的な存在感に確かに自分は畏れを抱いた。

総大将とはまた違った、その者の存在そのものに抱かせられるような畏れを。

「あれは…何者だ…」

牛鬼はもはや誰も聞く者のいないビルの屋上で、それでも呟かずにはいられなかった。









「水姫!おはよう!」

「ああ、おはよう春奈」

朝、学校では一番街が火事になったとかで少し騒ぎになっていた。

春奈もそれを聞いたのか私に詰め寄ってくる。

「水姫!昨日私たちが行った一番街が火事になったって…。水姫が危ないって言ってたのはそのこと?」

「まさか。私がいつどこが火事になるかなんて分かるわけないじゃない。ただ、危なそうな人たちがいっぱいいたからね。春奈みたいな可愛い子が外に出たら危険だなって思っただけ」

にこっと笑ってそう言えば、納得したようなしていないような顔で春奈は頷いた。

「そっかぁ。それもそうだよね…」

「そうよ春奈。そんなことより今日のお弁当は屋上で食べない?」

そう言うと、春奈は一気にその話題を忘れたように満面の笑みを浮かべて頷いた。

全く、この子ったら自分の食欲に忠実なんだから。
ま、そこが可愛いんだけどね。

今日も変わらない一日が始まろうとしていた。




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