とあまりよっつ


「えっと…こほん。紹介が遅れましたわね。私は熊野那智大社の主神、熊野夫須美大神(クマノフスミノオオカミ)です」

「私は熊野速玉大社の主神で熊野速玉大神(クマノハヤタマノオオカミ)です」

「そして儂が!熊野本宮大社の家都御子大神(ケツミコノオオカミ)!三柱合わせて熊野エロ神連合だ!」


「違います」
「違います」


見事なダブル突っ込み。

呆気にとられる私。

さっきのところから場所を移して、大斎原(オオユノハラ)という聖域に場所を移して座談会中だ。

ここはもともと熊野大社の本宮があった場所だったらしいのだが、一昔前に大水害で全て流されてしまったという。
熊野川・音無川・岩田川の3つの川の合流点にある中洲だったところで、当時は“川に浮かぶ森”と呼ばれていたとか。

今は少し拓けた場所になっており、三柱の神様たちはここで酒盛りなどをひらくのだと言う。

そんなところにあれよこれよという間に連れてこられてから、私は初めて気が付いた。

…また、獏を置いてきてしまった…。

いや、今回のは不可抗力。仕方があるまい。

そう割り切って、私も名乗る。

「私は夜護淤加美神と申します。若輩者ですがどうぞよろしくお願いします」

深々と頭を下げると、夫須美大神様にぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜられる。

「堅い堅い!もっと気楽になさいな」

そう言う夫須美大神の手にはいつの間にか酒瓶が。

「そうですよ。なにも構えることはありません」

そう言ってくれるのは速玉大神様。

「なんなら、その体のすべてを儂に預けてもいいぐらいだぞ」

…。このお方は発言を自重した方がいいと思う。

そんな個性豊かな神様に囲まれて、私は危うく何をしに来たのか忘れるところだった。

早くも酒盛りをはじめてしまった神様たちに、私はおずおずと切り出す。

「あの…今回、京都で起こった羽衣狐の一件は全て知っておられますか?」

その話題に、夫須美大神様と速玉大神様は微妙な顔をする。
対して、家都御子大神様だけが膝で手をぽんとうつ。

「そうだった、そうだった。あの女狐をいい加減どうにかしようと高淤加美の娘に使者を送ったことがあったなぁ」

「…あの、その娘が…私、です」

言えば、驚いたように私を見る家都御子大神様。

目を逸らしている夫須美大神様と速玉大神様は知っていたみたいだ。

「おお!高淤加美の娘だったか!どうりで幼いながらにいい女だと思った!」

「…」

もう何も突っ込まない。

いや、待てよ…

ここまでの話を整理すると…。

「私に使者を送ったのは家都御子大神様で…家都御子大神様はもしかして今まで地上を留守にしていて羽衣狐との戦いの顛末は…知らない、ということですか?」

顔をひきつらせながら聞くと、家都御子大神様は少し考えた後、うんうんと首を振った。

「うむ、そういうことだな!」








「どうか責めないでやってください。こんなお人ですが、いろいろとお忙しい人なので…」

「まぁ…今回のことはタイミングが悪かったのよねぇ」

速玉様と夫須美様が、がっくりとうなだれた私を宥めてくれているが…まぁ、最初から戦いに関しては自分の意思でリクオと行動を共にしていたのだから責めようもない。

「大丈夫、です。それよりもお聞きしたいことがありまして…」

気を取り直して、私は三方を見つめる。

「此度の件で、私の未熟さから地獄の穢れを私はこの身に移すことになってしまいました。それにより一時は命を落としかけましたが…母が、私の穢れを負うことで情けないながらも生き延びることとなりました。代わりに、母は神地にて永い眠りについてしまいました」

話しながら、私は左手を強く握りしめた。

「本当に、情けない話なのですが…母がいなくなった貴船を私はどう守っていけば良いのか分からないのです。どうか、教えてもらえないでしょうか」

私は再び、深く深く頭を下げた。

こんな情けない顔を、大神様達にとても、見せられなかったのだ。





[ 164/193 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -