みっつ


まだ月の高い夜中。

ざわりと空気が揺れたのを感じながら、私は視線を下にいる旧鼠達と、異様に大きな檻から目を離さない。

そう。あの中にゆらちゃんとカナちゃんがいるのだ。

私はそれを一番街のビルの上から見ていた。

「…ん…うん…」

微かな声が聞こえて私はハッとゆらちゃんを見る。

(良かった。どうやら目覚めたみたいだな…)

このまま目を覚まさなければ抵抗できずに喰われていたかもしれない。
まぁ、そんなことは私がさせないけど。

「な…ここは…!?」

ゆらちゃんも周りの雰囲気が尋常ではないことに気付いたみたいだ。

そして何やら星矢と言い争いをして…





「おい女…その名で呼ぶなや。この街ではな…星矢さんって呼べやー!!」

男の一人が花開院ゆらの制服に手をかけ、一気にやぶろうとする…

―パシッ

その手を誰かが止める。


「…誰や?」

「ぁあ?何だてめぇは」

「女子の服を破くとは男の風上にもおけない…いや、ネズミだから品性なんてものは最初から持ってなどいなかったか」

それはもちろん私。
ゆらちゃんの服を破くなんて破廉恥なことさせてたまるか!


「てめえ!!口のきき方に気をつけろよ!ここにいる星矢さんはな!俺ら旧鼠組の―」

「口のきき方に気をつけなくてはいけないのは貴様らよ。忠告は伝わっていなかったか?この二人に手を出したら命の保証はしないと言っておいたはずだが」

「何だとぉ!?」

殺気立つ人の皮を被ったネズミども。

「まぁ、待て」

それを止めたのは檻の前で大層な椅子に座っている星矢と呼ばれた男だった。

「あんた、何者だ?変な格好をしているが、妖怪にしては妖気はねぇな。ただの人間がこんなところにのこのこと出てくるとはなぁ」

「あんたが星矢ね…。残念だけど、あなたの質問に答える気はないわ。もちろんあんたなんかに名乗る名もないよ、ネズミちゃん」

―ピキッ

「んだとぉ?てめえ今どういう状況か分かっていってんのか?…そろそろ時間だな。丁度いい」

腕時計を見て、星矢はべろりと舌舐めずりをする。

「知ってるか…?人間の血はなぁ…夜明け前の血が一番ドロッとしててうめぇのよ。ちょうど…今くらいのなぁ…?」

そう星矢が言うと、周りの男どもがゆらちゃんとかなちゃんのいる檻の中に入っていく。

「いやっ…」

「ひっ…」

ゆらちゃんとカナちゃんがそれぞれ悲鳴をあげて顔色を変える。

「お前も喰ってやるぜ」

私にも男が寄ってくる。

…いやー、想像以上に気持ち悪いなこいつら。

「えい」

私は手のひらから水で槍を生み出す。

私が投げた水でできた槍は寸分違うことなく目の前の男と、ゆらちゃん達に迫っていたネズミどもの頭を貫いた。

水ってのは時に刃物よりも殺傷力を発揮するのよね。

「な、なんだこいつは…!」

「せ、星矢さん…!」

ネズミどもがうろたえた時だった。

モァっと空気が白く霞む。

「なんだ…?ありゃ…」

あぁ。やっと来たか。
ちょっと遅い到着のような気もするけど、私の出番はここまでかしらね。


「またせたな…ねずみども…」


あれがリクオの夜の姿…妖怪の総大将ぬらりひょん…か。

くそう。かっこいいなぁ!





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