いつつ


「ねぇ、リクオ…」

散々泣いて、泣きつかれた頃。

私は小さな声で彼に願う。

「外に、連れて行ってくれない?」

その言葉に、リクオが眉をしかめる。

「…まだ、体の具合悪いんだろう?」

「…このまま、横になる気分に…なれなくて…」

リクオの着物を掴みながら、心の中で自嘲する。

これじゃ、ただ、甘えてるだけだ。

それでも、次の瞬間、ふわりと体が浮かぶ感覚がして自分がリクオに横抱きにされていることに気付く。

そして、何も言わないままリクオは襖を開けて部屋を出る。

私は何処に向かうのか聞かなかった。

どこでも、良かった。



そして、リクオが連れて行ってくれた先は…―


「ああー!若様!…と、夜神様!」

「リクオ様!」

「夜神様だ!」

大きな部屋の襖を開けた先にはべろんべろんに酔った妖怪達。

「え…ええ!!」

よ、よりにもよって何故ここ!?

私、リクオに横抱きにされてるし、さっきまで泣いてたから目が赤いし…!いろいろと恥ずかしい…!

なんて思っている間に、妖怪達に騒がしく迎え入れられ、あれよあれよという間に酒の席に。

「夜神様!どうぞ料理です!」

「お酒です!」

「おつまみです!」

わらわらと名前も知らぬ妖達が私を囲んで長い食卓の上にいろんなものを置いていく。

「ちょっと、あんた達。夜神様はまだ具合が悪いんだから絡まないの。おどき」

後ろから彼らを追い払ったのは毛倡妓さん。

「あ、ありがとう…」

ございます、と言おうとして毛倡妓さんを見てぎょっと私は目を見開く。

「ちょ、ちょっと!毛倡妓さん!み、見えます!!」

そう。毛倡妓さんは顔を真っ赤にさせて、おまけに着物がとんでもなく肌蹴ていてあわや豊かすぎる胸が見えそうになってるのだ。

「ちょ、ちょ…!あ、黒田坊さん!」

慌てて毛倡妓さんの着物を掻き合わせて隠してあわあわしていると黒田坊さんと青田坊さんが何事かと見に来たので助けを求めるが、その黒田坊さんも…。

「わっはっは、いいじゃないか!色がないと酒の席もつまらないだろう!」

この…!エロ田坊!

「うおーい、首無ー!また毛倡妓が酔って脱いでるぜー」

そう首無に声をかけてくれたのは青田坊。

「またか…、ちょっと酒が入るとすぐにこうなるのだから困ったもんだ」

首無が苦笑しながら介抱用の水を持ってきてくれて、ようやくまともな人…妖がきたと思ったのに…

「なによー!首無も飲みなさいよ〜!ほら!」

酔った毛倡妓さんにいきなり酒を口に流し込まれて、首無さんはみるみる顔を真っ赤にさせる。

「おい〜…、夜神さんよぉ〜…ヒック…オレの酒が飲めねぇのかぁあ?」

「え、あの…?」

混乱する私をよそにあっという間に面倒くさい酔っ払いと化した首無さん達に絡まれてしまったのだった。








「ふぅ…」

ようやく絡んでくるリクオの側近たちをひっぺがしてどうにか酒の席から抜け出して、私は溜息をついた。

「あー…、びっくりしたぁ」

毛倡妓さんの危ない姿に、首無の説教。
黒田坊さんに胸を触られそうになって淡島が飛び込んできて…

「あは、あはは」

思わず思い出し笑いをしてしまった。

淡島と黒田坊はなかなかいいコンビだったなぁ。

そんなことを考える私の火照った体を、夜風が涼しく吹き抜ける。


「気ぃ紛れたかい?」

「あ…」

笑いを含んだ低い声に振り返ると、リクオがいつのまにか私のいる縁側にきて私の隣に腰掛けた。

「一人でいると、気が滅入る。あいつらみてぇなのに絡まれりゃあ、変な考えも吹き飛んだだろう」

言われて、私は苦笑して頷く。

「…もう、大丈夫。ありがとう、リクオ」

そう言った私の頭をリクオがゆっくりと撫でる。

「無理すんな。…お前は、オレが守る」

「リクオ…」

「って言っても、今回は助けられてばかりだったからな。オレぁもっと強くなる」

リクオが強い瞳で月を見ながらそう言った。

「守りてえモン全部守れるように強く」

その言葉に、私は目を細める。

そう言い切れるリクオが、その想いが、とてもまぶしかった。
そして、次の瞬間その強い瞳が私を射抜く。

「だから、オレと一緒に生きてくれねぇか?オレには…お前が必要だ。水姫」

赤い瞳が、ひどく艶やかで。

言葉を理解するのに、数秒かかった。




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