とあまりななつ
「晴明!?晴明なの!?」
割れた鵺の殻の破片が雨のように降り注ぐ中、私は深呼吸をする。
欠片に映る様々な記憶の絵。
これは全て羽衣狐の千年の記憶。
晴明のためと。息子を想う一心でその身を捧げた母の千年。
その想いは、ただただ純粋で。否定できるものじゃない。
だけど。
「死は悲しく、辛い。それをこんなにも体験してるのに…どうして他人の死に、少しでもその息子への想いを分かつことが出来なかったのか」
晴明を産むために喰われた幾人もの人々。
他人を犠牲にして出来上がる不死の術など、やはり外法にしかなりえないのだ。
羽衣狐の歪んだ愛へのやりきれなさが胸を焦がす。
「お前たちさえいなければ、晴明にもっと早く会えたのじゃ!」
そう言って、リクオを攻撃する尾を水切丸で弾いて、私はほとんど意識がないリクオを抱え上げる。
「そうじゃない、羽衣狐。死は変えることのできない普遍の事実。失ってしまったからこそ分かる命の尊さを、なぜ踏みにじることしかできなかったのか」
「黙れ、小娘。母になったこともないお前に妾の気持ちが分かるか!」
「分かる」
私の言葉に、羽衣狐が眉を寄せる。
「ここに、何よりも失いたくない命がある」
抱えたリクオの体をぎゅうっと抱いて羽衣狐を見る。
「そして、彼がいるからこそとても命が尊く思える。私だったら、誰かを大切に想う気持ちを、他人の命を奪うことなんかで汚したくはない」
「戯言を。やはりお前とは話が通じぬのう…。もう遊びは終わりじゃ」
羽衣狐の攻撃をリクオを抱えながら弾くが、やはり場数の差から羽衣狐とはとても渡り合えない。
だんだんと押される形になってきて、一瞬の隙に尾がリクオをかすめて私の手から弾き飛ばされる。
「リクオ!」
叫んで手を伸ばした私よりも早く、羽衣狐が刀を振りかざした。
「これで、本当に終幕じゃ」
―キィイイン
「!?」
リクオが何かを呟いたその直後、一際大きな欠片が記憶を映して降り注いだ。
そこに映っているのは…
「リクオ、の…お父さん…?」
リクオに手を伸ばしたまま、私は固まる。
次々と映りこむその記憶は、なに。
リクオのお父さん、鯉伴と、幼い羽衣狐…いや、依代?
これは…
「うう…!うううぅううう!」
羽衣狐が頭を抱えて叫ぶ。
その隙にゆらちゃんが破軍を撃とうとするが、羽衣狐の反応のほうがはやい。
しかし、その攻撃もまた竜二と魔魅流によって阻まれて一瞬の隙ができた。
「ゆらぁ!うてぇえ!」
羽衣狐に吹き飛ばされた竜二の言葉に、覚悟を決めたゆらちゃんが破軍を発動させた。
それに動きを止められた羽衣狐。
最後の刃を、リクオがついに羽衣狐に届かせた。
そして、鯉伴さんが映った欠片を見た羽衣狐が、呟いた言葉。
「お父…様…」
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