とあまりむっつ


そして、リクオと羽衣狐の畏れがぶつかった。

リクオが黒田坊の鬼纏を畏砲として放ち、自身は羽衣狐の懐に…―!

土煙の中を私は見つめる。

「お前の祖父も…、同じような小細工をしてきたなぁ…?」

リクオの刃は、羽衣狐の鉄扇にてかわされ、

「妾には二度同じことはきかぬぞ」

妖しく浮かぶ月に伸びるような尾から取り出された刀が鈍く光る。


「三尾の太刀」


月の線をなぞるように振り下ろされた刃がリクオの体を切り裂き、左胸を突き刺した。

「リクオっ!」

思わず竜二がいるのも忘れて闘いの場に飛びだした。

「リクオ!リク…!」

「大丈夫だ」

傾いた体を支えようとした私の腕を、リクオの手に掴まれて私は目を見張る。

「あ…、無事、で…」

認識をずらして羽衣狐の刃を寸ででかわしたのか。

しかし、そうはいっても傷は深い。

一度距離をとるために私はリクオを抱えて後方に飛び退る。

「おかしいのう…。心の臓をつらぬいたと思うたがな…」

刃についた血を舐めとって羽衣狐が嗤う。

「ぬらりくらりとやりすごしおって…。血も生き肝も喰ろうてやると言うとるに。そこの龍の小娘と一緒になぁ」

「させるか…!」

リクオを庇って前に出た私の肩を、後ろからリクオに掴まれる。

「待ちな」

「リクオ…?」

もう刀すら握れないはずのその手に、服を破いた布で刀を握らせリクオが羽衣狐を見上げる。

「よぅ、あんた。“いつから羽衣狐になったんだ”?」

「…?」

何のことを言っているのか。

皆の視線が集まる中、再びリクオが口を開く。

「“人間の”あんたに質問してんだぜ」

「え…?」

驚いたのは私だけではない。

聞かれた羽衣狐自身目を見開いている。

「“人間のあんたと”話をさせてくれ。オレの中の…ありえねぇ記憶のことだ」

リクオの記憶…

私が知る限り、リクオと羽衣狐が出会ったのはこれが初めてのはず。

何か、私の知らない、過去…?

見れば、羽衣狐も動揺しているようだ。

「…かんけい…ない…。千年を転生し続ける妾とは関係のない話じゃ…!」

“人間”の…ということは、羽衣狐の依代の記憶…?

確かに、羽衣狐は人の体を借りているだけに過ぎない。
しかし。羽衣狐が覚醒した時点でその体はすでに羽衣狐自身になったことも事実。

依代の記憶も人格も、今はないはず。

だというのに、あの目に見えて狼狽する羽衣狐の姿はなんだ。


考えをめぐらすその間に、苛立ったように羽衣狐は太刀を振りかざす。

「くだらん話し合いは終いじゃ。まずは邪魔な小娘を喰ろうてやる。龍の生き胆はさぞかし美味じゃろうて!」

考えにふけっていた私が反応しきれなかったところを、リクオが突き飛ばしてくれて我に返る。

「リクオ!」

慌てて振り向いた先には羽衣狐の太刀をぎりぎりでかわすリクオの姿。


「どうした?目に見えて力を失っておるぞ」

そして、四尾の槍がリクオの体を貫く。

今度は幻影ではない。

全身の血がサァッとひいていくのが分かった。


ざわりと風が私の髪を揺らす。

どくん、と大きく全身が脈を打ったとき

―ぽん

「落ち着け、水姫」

「ぁ…、白尾、さん…」

龍に化身しかけた私の頭をいつのまにいたのか、白尾さんの手が撫でる。

「今化身すれば、それだけで手負いの妖怪は浄化してしまうぞ。お前が守ろうとしている、あの孫もな」

「…ごめん。また、我を失いかけた」

「なに。たった十年生きたか生きないかで自制を覚えるのは無理じゃろうて。その時は私が止めてやる。それよりも、出来ることをするがいい」

その言葉に、私は一気に頭が冷えた。

「ありがとう。白尾さん」

獏も、私の言った通りゆらちゃんのそばで彼女を守ってくれている。

出来ること。

「白尾さん。鵺はもう、産まれるね」

黒い巨大な赤ん坊を見上げた私に、白尾さんは肩をすくめる。

「予定を変更しよう。晴明の出産に備えて結界を張るよう獏に。何が起こるか分からないけど、人間も妖怪もなるべく死者がでないように動いてって獏に伝えてきて」


それに頷いて、白尾さんが地面を蹴った瞬間


鵺の殻が、割れる音がした。



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