とあまりいつつ


ゆらちゃんとリクオの道をあけながら、騒がしくなった上を見て私は眉をしかめる。

羽衣狐と対峙していたのは…あれは、漫画でしかみたことはないが恐らく秋房。

なぜ、彼がここに、と思ったのも一瞬。

すぐに水の匂いを感じ取り、私は視線を横に逸らす。

そこには思った通り、いつのまにか上階に立つ竜二の姿が。

そして、さらにその反対側。

竜二の意図していることを理解して、私は息を飲む。

嘘の秋房に竜二と魔魅流の攻撃。
それさえも囮にした大きな罠。

上手くいく。

これは羽衣狐よりも、この場の誰よりも深く張られた罠。

案の定、羽衣狐が竜二と魔魅流の攻撃に気を取られたそのほんの一瞬。

上空に浮かんでいた、封印の楔が“鵺”に向かって―…!






そして、それは失敗した。

突如姿を現した土蜘蛛の手によって。

これも、また、ゆらちゃんとリクオを上へ昇らせるための囮でしかなかったのか。

全員の意識が鵺と土蜘蛛に向いている隙に、私はゆらちゃんを一気に上階へ引っ張り上げた。

妖怪のリクオは私が手助けしなくとも軽く来れるだろう。

同時に、羽衣狐に吹っ飛ばされた竜二を抱きとめる。


「くっ…!」

「無事…ってわけじゃないよね。うまくいくとおもったんだけどな。考えはよかったんだけどねぇ」

「水姫か。…ッチ。助かったぜ」

すでに包帯で左腕を吊るしている竜二は満身創痍だった。

その体を横抱きにして、少し前線から遠のく。

「礼ならリクオに。羽衣狐のとどめの攻撃を止めたのはあいつだから」

そう言いながら、竜二の傷だらけの体に力を流し込んで癒す。

「はっ…、そうかよ。妖怪に助けられるなんざ、神さんに助けられた方がまだましだったんだがな」

「そんだけ憎まれ口がたたけるなら大丈夫。心は折れちゃいないんでしょ?」

にっと悪戯っぽそうに笑うと、竜二も口の端を上げる。

「当たり前だ。おい、あいつんとこに降ろしてくれ」

その言葉に、竜二を担ぎながらリクオのそばに降り立つ。

もう自分で立てるから離せと竜二が喚いていたが、無視してリクオに声をかけた。

「羽衣狐。純粋な闘りあいじゃあ、私でも勝てないかも。どうするつもり?」

そんな私に、リクオははっと笑った。

「なんとしても届かしてやるさ。親父の仇のこの刃。…どのみち倒せるかどうかはやってみなきゃわからねぇ。やりあうしかねぇな」

その言葉に、私に俵担ぎされている竜二が顔をしかめながらゆらちゃんと魔魅流に指示を出す。

「ゆら!!魔魅流と組め!」

「え?魔魅流くんと?」

「ゆらと組む?それは命令か、竜二…」

各々の反応をする二人に担がれたまま竜二が声を張り上げる。

「しかたねぇ、借りもできちまった。鵺は後回しだ!やつのサポートにまわれ!ここで羽衣狐を倒す!!」







「かっこいい台詞だけど、その体勢だと迫力ないね、竜二くん」

「うるせー。てめぇが俺を降ろせばいい話だろうが」

「いやぁ。怪我人を歩かせるのは忍びなくてね。これでも神様だから」

「ハッ。なら今すぐ鵺をぶっ殺してくれってんだ」

「ははは。胸に刺さるね、竜二の言葉は」

「嘘言え。このはったり野郎が」

「…竜二って、私のこと好きなの?」

「は?」

「だって、好きな子ほどいじわる言いたくなっちゃうらしいじゃない」

「悪いが、これはもともとだ。期待に添えなくて悪かったな」

「あはは。それも嘘だったりして。竜二の言葉は嘘ばっかりであてになんないからねぇ」

「バーカ。神に嘘つくほど罰当たりじゃねぇよ」

「どうだか。嘘はつかないけど悪態はつくってのがもうすでに矛盾してるし。でも…」

「?」

「生きてて、よかった」



本当は羽衣狐の攻撃で竜二が死ぬかと思った。

止めきれる距離じゃなかったから。

誰が死ぬとか死なないとかもう分からないから。

本当に心配したんだ。

こんな戦場だってのに、…いや戦場だからこそ。


私は、羽衣狐と戦うリクオを見つめる。

…―死なないで。


鵺の復活の阻止よりも、私はその気持ちの方が強いことをどこかで感じていた。




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