とあまりよっつ


「かつて、人と共に闇があった。妾たち、闇の化生は常に人の営みの傍らに存在した…。けれど、人は美しいままに生きていけない。やがて汚れ、醜悪な本性が心を占める」

白尾さんが羽衣狐を目を細めて見つめる。

「信じていたもの、愛していたものに何百年も裏切られ、その度に絶望し」

私は目をつむり、羽衣狐の言葉を聞く。

「妾はいつかこの世を純粋なもので埋めつくしとうなった。それは黒く。どこまでも黒く―…一点のけがれもない、純粋な黒」

そして、羽衣狐が黒に包まれる。

次には私が初めて会った時と同じ、黒のセーラー服を着た羽衣狐が立っていた。

「この黒き髪、黒きまなこ、黒き衣のごとく完全なる闇を…。さぁ、守っておくれ。純然たる…闇の下僕たちよ!!」

京の妖怪が鬨の声をあげた。






「“守れ”ってのはどういうこった?」

ゆらちゃんが絶望的な顔をしているところに、リクオが純粋な疑問を投げかける。

「“鵺”って闘えねーのかい?」

その言葉に、私が黒い巨大な赤ん坊を見上げながら頷く。

「あれはまだ“人”ではないね。中がまだ定まってない。羽化する前の蛹のような状態だ」

それにリクオは驚いたように片眉を上げる。

「水姫、わかんのか?」

「ええ。…ただ、残りの時間はあとわずか。リクオとゆらちゃんで協力して羽衣狐を倒し、あれが孵る前に破壊できれば、或いは」

その言葉に、秀元さんも頷く。

「まだ止められる!その祢々切丸と…破軍さえあれば!」

それに、互いにリクオとゆらちゃんが顔を合わせたその後ろ。

―ガキンッ

「私達は、二人のサポートに回ろう。この時代がどうなるか…決めるのはこの二人みたいだから」

後ろから二人に斬りかかってきた茨木童子の刀を水切り丸で止めて言ったその言葉に頷いてくれる白尾さんと獏。

本当は止められるなら私が直接あれを壊せばいい。

羽衣狐の実力は分からないが、白尾さんと獏がいればどうにかなるかもしれない。

それでも。

自分がここで表舞台に立ってはいけないと。

時代の分かれ道があるとするならば、ここで私が道を決めてはいけないと。

何かを通じて、私はそれを感じていた。

やんわりと警告するように。

頭に鳴り響く“それ”を無視するわけにはいかなかった。

これが“理”なのかと漠然と考えながらも、私は二人の道をあける。

今まで、不条理にしか感じなかった“理”

それを今、私は素直に純然に受け入れている事実に苦笑する。

もしも、今ここで闘いに敗れたとしても、“生死”を問われるのは神たる私ではないのだ。

追い詰められた獣が自分で生きる道を確保するべく、二人は昇る。

前世で見たドキュメンタリー番組を思い出した。

アフリカのサバンナでライオンに喰われるバッファロー。
飢え死にしそうなチーターの子供。

撮影している者や研究をしている人たちは、たとえそれが絶滅危惧種であったとしても保護をしたりはしない。

“弱肉強食”

それが全ての“理”だからだ。

だけども。

せめて、少しでも多くの笑顔がある未来を守れるよう、私は“それ”をつくれる者たちの力になろう。

傍観者でなんかいて、たまるものか。

道とは、何もないところから一人が通り、二人が通り。
やがてたくさんの人が踏み固めてなるものならば。

私も、その道を踏みしめる一人でありたいから。



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