とあまりひとつ
さて。そんなこんなでようやくリクオの百鬼夜行も形を取り戻し、いざ弐条城へ!
…の、はずなのだが。
「どうしよう、白尾さん!」
ひそひそと私は白尾さんに涙目で訴える。
「獏が…!獏が…、拗ねちゃって私と口聞いてくれない!!」
その言葉に、白尾さんがひょいっと片眉をあげる。
「水姫。そもそも、お前はまだ私に獏とやらを紹介しておらぬぞ。自分の主が自分を放っといて他の男と親しげに話し込んでおれば機嫌を損ねても無理はなかろう」
「そ、そんな…!だって、私が勝手に行動して誰かと仲良くなるのはいつものことだし、なんだかんだいつも許してくれるのに!」
そんな私に、白尾さんは苦笑する。
「何か、いつもと違うこととか、思い当たることがあるじゃろう?例えば…何かを命令しておいたまま放置して、挙句のはてにそのことを忘れていたりとか」
「うっ…!」
な、なんで白尾さんは私のことをこんなに知っているんだ…!
確かに、今回はお願いするだけしておいてすっかり獏のこと忘れてたよ?
遠野以来一回も顔合わせてないのに関わらず、なんの連絡も取ろうとしなかったよ?
だからって…!
だからって…!
「なんで、主である私に攻撃しようと針を向けてくるの!!?」
そう。ようやくいろいろと吹っ切れて獏に声をかけようとしたら無言で針を構えられて、慌てて白尾さんのところに逃げてきたのだ。
いや、防ぐこともできるかもしれないけど、獏と戦ったことないし、何より獏と戦いたくないし…!
「針はいやだぁあ!」
注射も大嫌いだから、前世でも病院にだけは一回も行ったことがないのに!
うわあぁ!と頭を抱えれば、白尾さんはふうっとため息をついて、私をひょいっと俵担ぎにする。
「あれ?え?白尾さん?」
そのまますたすたと獏のもとへ歩みゆく白尾さん。
「よう。おぬしが水姫の神使の獏とやらか?」
ひょいっと獏の前に私を降ろしてしまう。
また、無言で針を取り出す獏。
「お前は?」
私には一瞥もくれずに、獏は白尾さんに尋ねる。
「新しく、水姫…夜護淤加美神の神使になった白尾というもの。よろしゅうな、坊主」
「新しく…神使…!?しかも、俺を坊主呼ばわりするか」
うわあぁ…、殺気がだだ漏れですよ、獏さん。
「ほほほ。耳も隠せぬ小童には坊主がふさわしいじゃろうて。まぁ、神使としては一応おぬしの方が長いようだがのう」
獏の耳がぴたっと伏せられた。
やばい。キレてる証拠だ。
「喧嘩を売っているなら、買うが」
「ほう。ならば幾らで買ってもらえるのか試してみようか」
「え?え?」
待って、待って待って!
もう百鬼夜行は出発しちゃったよ?
なのに、今から同じ神使同士で相剋時バトル第二ラウンドですか!?
ぽかん、としている間にあっという間に二人は拳を交えた瞬間その場を離れる。
崩れた瓦礫の上に乗った獏が反対側に着地した白尾さんに針を投げる。
それをひらりと交わした白尾さんは自分の髪の毛を抜いてふっと息を吹きかける。
すると、その髪の毛一本一本が白尾さんに化けて獏に踊りかかる。
獏がそれぞれに針を投げつけるが、効果はないようだ。
四方からの攻撃に宙を飛んだ獏に、いつの間にか獏の上にいた白尾さんが拳を一発お見舞いする。
猫パンチ!と楽しそうに拳を振るっていたのは聞かなかったことにしよう。
そうして地面に叩きつけられた獏は、ガララッと瓦礫に埋まって静かになった。
とんっと華麗に地面に着地した白尾さんは楽しそうに笑って獏を見る。
「その程度か?なかなか安い喧嘩よのう」
な、なんで挑発するんですか、白尾さん!
慌てて仲裁に入ろうとしたとき
「…けるな」
瓦礫に埋まった獏が小さくこぼした。
「ふざけるなよ…、俺は水姫の言うとおり動いた。言われた通り柄にもなく子供達だけじゃなく妖怪に襲われた陰陽師さえも助けたんだ。なのに…!」
ぎりり、と歯が軋む音が聞こえた。
「新しい神使だと?ふざけんな!…俺が!!水姫の、神使だ!」
次の瞬間、神気が爆発して獏が獣の…本来の姿に戻って吼えた。
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