ここのつ



「ど…どういうことや!!くわしく聞かせぇ!」

土蜘蛛の発言に、呆然としてる中甲高い声が響いた。

現れたのは、狼の式神に乗ったゆらちゃんと13代目秀元さん…と、獏。

それも思いっきりの仏頂面をした、獏。

私と目を合わせようともしない。

しまった。
やっぱり放置しすぎたみたいだ。
かなり拗ねてる。

こっちは白尾さんもいるし、この状況どう説明したもんか。

そんなことを悩んでる横で、秀元さんが鵺が晴明だということについての見解を話していた。

「安倍晴明の母親は“狐”って伝承を聞いたことない?」

「え!?そうなん!?」

その言葉に、ゆらちゃんが驚いたように振り向く。

「そう。平安時代の伝説的陰陽師安倍晴明は…人の世を表から操り、百鬼夜行をあやつり使うた男や」


「“恋しくは訪ね来てみよ和泉なる信田の森のうらみ葛の葉”―…千年ほど前、安倍保名と恋に落ちた白狐の化身、葛の葉姫との間に生まれた童子丸という子が、晴明よ」

秀元さんの話に続けて、こんな話を歌うように言ったのは、私の後ろにいる白尾さんだった。

「白尾、さん…。なんで、そんなことを?」

聞くと、白尾さんは涼やかな顔でくすりと笑った。

「葛の葉姫と私は良き飲み仲間だったゆえな」

「え!?」

葛の葉姫と、白尾さんが知り合い…?
えーっと、ということは…

「白尾さんって羽衣狐と飲み仲間だったの!?」

半ば信じられずに尋ねれば、白尾さんはどこか遠くを眺めながらふわりと猫毛を揺らす。


「…そう、ともいえるが…。なにぶん、葛の葉姫が、羽衣狐だと知ったのは今の土蜘蛛の話からじゃからな」

「どういう…」

「つまりじゃ。私は葛の葉姫も晴明も知っておる。しかし、葛の葉姫が羽衣狐となったのは知らんかったということじゃ」

その言葉に、私は眉をしかめる。

「えー…っと。つまり、白尾さんが知ってる頃の羽衣狐は、まだ羽衣狐じゃなかったってこと?」

言葉にするとよくわからないが、とりあえずまとめてみると白尾さんは頷いてくれた。

「葛の葉姫は、千年を生きると言われる白狐だった。神の使いともいわれるな。しかし、千年前、時の権力者により葛の葉姫は殺されてしもうた。私は、そこまでしか知らない。何故、葛の葉姫が羽衣狐などという妖になったのか。何故、再び晴明を産もうとしているのか」

その場の全員が、白尾さんの話に聞き入っていた。
秀元さんさえも目を丸くさせて白尾さんを見つめている。

「ってことは、白尾ちゃん…。四百年前の大阪城のときは淀殿が葛の葉姫だということを知らなかったん?」

秀元さんの問いに、白尾さんは少しさみしそうに笑う。

「知っておれば、何かが変わってたのだろうか。…いや、今はそんなことはどうでもいい、か。さて。敵が安倍晴明だと分かったからには、気ぃひきしめんとな」

その言葉に噛みつくように疑問を問うたのはゆらちゃんだった。

「な、なんでや!安倍晴明って陰陽師やろ!?人の味方や。なんで妖怪がわざわざそんなことを…!京妖怪は何がしたいんや!」

「人の味方ぁ?」

ゆらちゃんに答えたのは、白尾さんではなく土蜘蛛だった。

「鵺は味方なんかになるか。“使う側”だからな」

それだけ言って、いつの間にか傷を塞いでいた土蜘蛛はリクオを見てにたりと笑う。

「おう…。お前、面白かったぜ。じゃあのう。また闘ろうや」

そう言って、大きく跳躍して土蜘蛛は京都の闇に消えて行った。





生まれるのは安倍晴明。
羽衣狐は白尾さんのかつての友、葛の葉姫。

彼らの望むのは闇が支配する世界。

千年前に、何があった。

葛の葉姫は殺された、と白尾さんが…。

母を殺された怨みで、晴明は人を闇の支配下に置こうと…?

いや、違う。

まだ。

まだ、何か欠片が足りない。


「白尾さん。葛の葉姫と知り合いってことは、晴明とも知り合いだったの?」

聞けば、白尾さんは頷いた。

「生まれた頃からよう知っとるよ。奴は…陰陽の秩序を永遠にするためなら手段を選ばん奴だった。まさに妖と人の血が完璧に混ざった自分自身のような世界を愛していた。…永遠を生き、その秩序を永遠とすることが、奴は自分の使命であると思い込んでおった」

「永遠…」

「しかし、そのために奴は反魂の術…禁忌に手を染めた。それ以来、私は奴のもとを去った。そして、風の噂で葛の葉姫が死んだことを、知ったのよ」

反魂の術…。

人が手を出してはいけない禁忌。

もし。

もしも、晴明がその術を完成させていたとしたら…?

羽衣狐から再び生まれようとしている晴明。

それは、つまり…完璧な反魂の、術…!

「そうか!晴明は…千年を生きる自分の母親からもう一度生まれることを思いついた!だけど、葛の葉姫は殺されてしまって…だから、葛の葉姫は晴明の願いを叶えるために人に依りつき何度も人の世に現れる羽衣狐となった…」

かちり、とピースのはまる音がした。



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