みっつ
「朝が来たな」
「…。…ん?そうだな…」
秋房の言葉に、青田坊が相槌をうつ。
獏は黙って自分の上着を脱いで、それを口でびりっと裂く。
それを切られた肩にきつく縛って応急措置を施していた。
「虫妖怪どもは君たちのおかげで帰っていったようなものだ。すまない…。礼を言うよ。それにしても、君は…妖怪、なのか?」
秋房の疑問に獏は肩をすくめる。
「妖怪と同一視されるほど屈辱的なことはない。次にそんなことを言ってみろ。二度も許すほど、俺は心が広くない」
その言葉に、秋房だけでなく青田坊も獏を見る。
「では、君はいったい…」
「てめえ、妖怪を馬鹿にするつもりか?オレのことはいいが、リクオ様を馬鹿にしようってんなら…」
「“解”」
二人の言葉を遮って、獏は怪我人を囲っていた結界を解呪する。
その行動は二人に対してなんら興味を示していない、という意味を明らかに含んでいた。
「今の俺はただの神使。主の言いつけを守ったにすぎない。それに対する礼はいらないし、妖怪に対する侮辱心もない。だが、俺の主は神だ。その使いたる俺を妖怪として見なすなら次はない、ということだ」
そう言い残して、獏は結界で守っていた怪我人のもとへと歩みを進めた。
「神、使…!?では、神がこの戦いに…!?」
「あいつが、神使…?だとすると、あいつの主って、まさか…」
秋房と青田坊はそれぞれ違った驚きに呆然としていた。
「息はあるか」
五徳結界の中の者たちに声をかければ、比較的軽症の者たちが答える。
「何人かは…もう…。それから、当主が…!」
陰陽師たちに囲まれた27代目当主のもとへ向かってその状態を見た獏が顔をしかめる。
「…。危ないな。少なくとも、俺の手には負えない。もちろん、人間の施術では手遅れだろう」
「そんな…!!」
陰陽師たちが悲痛な声をあげる。
その様子に、秋房と青田坊もやってくる。
「しかし」
そんな中、獏は針を取り出す。
「俺の主、あるいはその母上ならば…。それまでを繋ぎ止める努力はしよう」
「!本当ですか!」
喜ぶ周りの者を眇めて獏は声を低くする。
「勘違いをするな。あくまで努力であって、助かる保証など、どこにもない」
獏の言葉に一喜一憂する陰陽師の様を見て、獏が溜息をついたときだった。
「秋房兄ちゃん!?これどーなってんねや!!」
一際大きな声が壊れた屋敷に響き渡った。
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